油絵の誕生は、中世の絵画技術史には遅くても10世紀末には、油絵具が使用されていたことがしるされています。
油絵の価値が、絵画史上で認められはじめるのは15世紀半ばからになります。
油絵具の発明者
油絵の発明者はフランドルのファン・アイク兄弟だと長い間信じられてきましたが、兄弟は油絵具の発明者でも改良者でもありません。
無名の職人たちが数世紀にわたって研究改良を繰り返した努力の結果だったのです。
ファン・アイク兄弟の功績は、数世紀にわたる経験と知識に彼らのすぐれた画家としての才能を見事に結び付けて、新しい表現を確立するとともにそれを利用して傑作を生みだしたことにあります。
油絵具の長所
油絵具は主に接着剤成分として乾性油を使用したものです。
乾性油とは亜麻仁油、ケシ油、クルミ油などの種子を絞り精製して得た食物油で、時間経過とともに常温下でかたいひまくを作る性質をもちます。
乾性油は酸素を吸収しながら樹脂状の物質に変化して、乾燥する途中わずかに皮膜が膨張します。
乾燥した絵の具の皮膜は表面に光沢がでて、一部の顔料を乾性油と練り合わせることで透明感が生じます。
透明感と光沢は、他の絵の具では真似できない特色です。
揮発性油の開発
15世紀半ばまでに完成した油絵具は、今のハチミツかマヨネーズに近いかたさで少しでも厚塗りすると、とたんに乾きが悪くなるのでいかに薄塗を実現するかが問題点でした。
13世紀から15世紀初頭にかけて、高度に発達した蒸留技術がテレピン油とラベンダー油などの揮発性油を開発します。
揮発性油を加えることで粘りの強い油絵具はずっと扱いやすくなり薄塗が可能になりました。
15世紀フランドル絵画の功績
透明色と不透明な色を考案したのは、まさに15世紀フランドル派の画家たちの偉大なる功績です。
初期油絵の色彩方法は今の方法とは全く異なり、絵の具がとても柔らかくて塗り重ねは下塗りの上に、明暗が暗くなるほど薄塗の層を何回も重ねるのが原則でした。
制作途中で構図の変更や塗りつぶしはできないし、色彩をするときは、塗り絵のようにきちんとした輪郭線で全ての形が描かれていなければならないのでした。
油絵具全盛期時代
初期油絵具はかなり手間のかかるものでしたが、作品の絵肌の魅力、耐久性、絵の具の伸びなどは絵画技術の主流を占めていました。
支持体は主に木材でしたが、16世紀になると、油絵は木材の代わりに、帆布木枠に張って利用するようになり絵画の大きさは無制限に広大されます。
同時に、下地の作り方も膠と白亜(ボローニャ石膏)の水性下地から油絵具そのものを下地に薄塗りする方法にかわりました。
油絵具も固練り絵の具が登場し、筆のタッチが残せる技術革新がおきます。
白絵具の塗りつぶしが可能になると、白の下地の代わりに灰色や茶色の有色下地が主流になり白い下地は、印象派の時代まで使われることがなくなりました。
油絵具から合成樹脂時代へ
油絵の誕生以前から、絵の具は画家が自分の使う分だけ自分で作っているのが当然で、修行も絵の具作りから始まりました。
産業革命は絵画の世界にも大変化をあたえます。
画家が自作する代わりに、工場製品となって画材店の店頭で買うものになりました。
画材店に並ぶ絵の具の色も数倍になり、画家は絵の具作りの専門知識が不要で才ある人が画家になる機会が増えてアマチュア画家も増えました。
印象派の絵画を見るとチューブから出したままの微妙な絵の具の組み合わせで描かれています。
油絵の技術革新はここまで、立体派がコラージュで油絵具を否定し、工業用塗装が耐久性を求めて合成樹脂塗料(アクリルなど)の進む道を進み、油絵具はマイナー化していくのでした。
まとめ
現在油絵の歴史に科学の力が加わり、新たな時代に対応する油絵の具へと変化しています。
伝統に科学の力が加わり、より幅の広い表現が生まれています。
人工顔料は巨匠たちも見たことのない、鮮やかな色彩を作り出し、人工樹脂は変色のない安定した画面を生み出すことに成功しました。
絵画の新たな時代には、まだまだ新しい表現の油彩絵画を生み出していくことでしょう。
油絵の具の耐久性は現在600年ですが、まだまだのびると思います。