美術館などで昔の画家の作品をよく見ると
画面にひび割れを発見した経験はないだろうか?
時代によって色んなパターンの亀裂を発見することもあると思います。
下地の石膏が割れたものやニスによるひび割れなど、時の経過とともに美しい亀裂もある。
現代でも画材とニスなどの扱いを間違えると、数年後に亀裂と剥離のトラブルはありえます。
自分の大切な作品を守るためにも、絵画のトラブルについての知識を持っておこう。
亀裂
・深さと形によって、呼び名が変わる
亀裂の深さによって、次のような名称がある。
画面の表面に入る細かい亀裂を、ヘヤクラックという。
ニスに生じた割れがほとんどで、多角型に広がる。
絵具の表面に入る細かい割れを浅割れ目、これより深く幅の広いものがクレージングといわれる。
さらにこれが進んで、絵具層を貫通して、次の第2層に入った亀裂を、深割れ目という。
深割れ目のひどいもので、ワニ皮のような模様が縦横に入った亀裂を、ワニ皮割れといっている。
このほか、亀裂の部分の絵具が、水ぶくれのように膨らんで、さらに細かく砕けるなどいろいろある。
・描き進むにつれ、乾性油を多くする
下の絵具層に比べ、上に重ねる絵具の油分が少なすぎると亀裂が入る。
とくに、下の層が半乾きであると割れやすい。
これは、乾くにつれて上の絵具層の油分を吸ってしまうからだ。
また、上層の絵具に揮発性油を使いすぎても、亀裂が発生しやすい。
乾燥とともに油分が蒸発してしまい、顔料が充分に固まってつかないのが原因となる。
・筆やナイフによるタッチの溝に注意
硬い筆やナイフのタッチのあとには、深い溝が残りやすい。
これが原因となって亀裂が入ることがあるので、
極端なインパストの凹凸に注意すること。
・下塗りや描画中に、ジンクホワイトを使わない
ジンクホワイトや、この絵具との混合色を塗った上にほかの絵の具を塗ると、
絵具のなかの乾性油が顔料と反応して亜鉛セッケンを生成するため
亀裂や剥離する原因となる。
■ジンクの混じった絵具は膨張と収縮を起こして亀裂を生む。
■亜鉛セッケンは絵画層の表面からできるため、重ねる絵具のつきを悪くして剥離する。
・ニスは完全に絵が乾いてから塗る
絵具の乾燥が充分な作品にニスを塗ると、亀裂が入って、絵具層にも及ぶことがある。
これは、ニスの方が絵具よりも乾きが早いからだ。
絵具は乾く途中で空気を吸い膨張するため、先に乾いたニス層に亀裂が入る。
・絵の保存は、環境条件を一定に保つこと
絵の保存は、温度差があまりなく、湿気が少ない場所がよい。
キャンバスの麻布に塗られている膠は、水分に弱いので、湿気を大量に吸うとゆるんでしまう。
これが再び乾燥してちぢむときに、キャンバスの下地塗料に亀裂が入り、絵具層にも及んでくる。
また、キャンバスの裏側にも注意が必用だ。
ほこりがたまると、これが湿気をためやすくなる。
・作品の扱いは慎重に
キャンバスは突いたり、押したりすると、乾いた絵具層にひびが入る。
また、裏側から突いたりすると、その部分だけ膠がゆるんで、亀裂のもとになる。
剥離
・乾いた画面に描くときは、表面に凹凸を
ナイフで描いた面は、とくに乾くと表面が滑らかになり、塗り重ねると絵具のつきが悪くなる。
このような場合は、固くなった表面を軽くサンドペーパーでこすって描くと良い。
出てきた粉は、充分にきれいに取ること、または、加筆用ニス(ルツーセなど)をごく薄く塗って、
乾いた絵具面を少し溶かしてから描くのもよい。
・画面の汚れや水気の上に描かない
乾いた画面についたほこしりは、あとから塗る絵具の油分を吸ってしまう。
また、ストーブをたいた室内や、湿度の高い日などは、画面がくもって、水蒸気がつきやすい。
水気のあるところの油絵具を重ねてもつきが悪く、剥離の原因になる。
画面の汚れや水気は、布などで拭き取ってから描くようにしよう。
・ジンクホワイトを下地や混色に使わない
このホワイトは、乾くと金属セッケンの層をつくる。
そのため、ほかの絵具層との剥離や亀裂の原因となりやすい。
・描画用のワックス入りメディウムを多用しない
とくに、揮発性油とワックス入りメディウムだけで描くとほかの絵具層とのつきが悪い。
下地に用いると、メディウム中のワックス成分が密着力を悪くさせ、
重ねた絵具層と剥離しやすくなる。
このほか、アルキド成分のメディウム中の樹脂成分や油分が固い膜をつくるので、
ほかの絵具とのつきが悪くなりやすい。
補足
最近でもぺトロールだけで厚塗りして、
亀裂によって画面がはがれたというメール相談を受けたことがある。
これは初心者によくあるトラブルの1つです。
剥離する絵は少ないですが、亀裂の方は多くの画家が体験しているので、
注意して制作してください。
とくにブラックによる亀裂には気をつけよう。