人が絵を描くという行為の歴史は古い。
太古の頃より、土、動植物、あるいは細かく砕いた鉱石など身近にある顔料、すなわち有色の微粉末を使って絵を描いてきました。
たとえ同じ鉱石から作ったものであっても、粒子の細かさや粗さで微妙な色の違いができる。
日本では自然界からもたらされるこの顔料のことを「天然岩絵の具」と呼び、画家自らが膠を加えて練り合わせてそれを使用します。
今日、この天然岩絵の具は日本画で用いられ、そのため日本専用といったイメージが強いが、実は西洋絵画においても約250年ほど前まではこれとほぼ同じものがよく使われてました。
両者の違いをあげるとすれば、一つは西洋の顔料の方が日本の顔料に比べるて鮮やかな点でしょう。
しかしそれは民族的な色に対する好みの差から生まれたものです。
また日本の岩絵具の場合、青や緑の数が限られているため、焼いたり、混色あるいは重色といった工夫をして色のバリエーションを増やしてきました。
それらは大きく、青、赤、黄、白、黒の系統に分けられる。
青系統の顔料
西洋の自然顔料ならではといえるのが天然ウルトラマリンブルー。
半貴石ラピスラズリから青の成分のみ、特殊な方法で取り出したものです。
「海を越えてきた青」という意味で、その名のとおり、ラピスラズリはアフガニスタンのバダクシャン地方など、きわめて限られた地方でしか算出しない。
日本では顔料として用いられたことはなく、正倉院御物の「紺玉帯」などのように装飾品としてもたらされたにとどまります。
その希少価値から特別な青としてのさまざまなエピソードが伝わっており、例えば古代オリエントやエジプトでは金と同様の価値があるものとして扱われていたという。
中世になるとテンペラ画に使用されるようになります。
宗教画に登場するマリアの衣にこの青は使用され、ひときわの輝きを与えました。
しかし、1828年に合成ウルトラマリンブルーが開発され普及したため、現在天然のものはほとんど見かけることはありません。
あと代表的な青として欠かすことのできないのが群青で、アズライトを原石とする塩基性炭酸動です。
自然界に産するほかの青は産出量が限られるので、近代工業が合成の青を生み出すまでは最も一般的な青でした。
ちなみに日本画では群青の中でもとりわけ色が濃いものを「金青」と呼び、粒子が最も細かく明るい群青を「白群」と呼び、中間にも多くの青がある。
赤系統の顔料
赤の顔料で代表的なのは朱砂、朱、鉛丹、。
朱砂は辰砂鉱を原石とする流化水銀で、被覆力に優れており、厚みがある赤である点が特徴といえる。
また、よほどのことがない限り褪色することがない。
その歴史は古く、弁柄とともに顔料の中でも最も古くから用いられていたものの一つです。
日本では縄文時代前期の遺物にその使用が認められ、中国においては紀元前2000年頃の遺物にはすでに朱砂が用いられていました。
朱砂は現在では原石の名称である「辰砂」と呼ばれることが多いが、この名はそもそも中国湖南省・辰州産のものの品質がすぐれていたことに由来します。
伝えるところによると、西洋では品質のよい朱砂はあまり取れなかったため、中国産のものをわざわざ輸入していたという。
朱については、色の種類ということでいえば東洋のものの方が豊富で、濃い赤から黒、紫みを帯びたものまでと幅広い。
そのため古くは朱砂と同じく、西洋では最上質のものは中国などから輸入に頼っていたという。
西洋では中世末期から錬金術が発展した結果、水銀と硫黄から朱を人工的に作るようになります。
日本でも合成品が生まれるなど、東西を問わず広く使用されてきたが、近年、水銀の毒性の点からメーカーによっては使用を控えたりしています。
四酸化三鉛の鉛丹は黄色がかった赤色の顔料で、写本のテンペラ画によく使用された。
この顔料の短所は長期間空気や日光にさらされると変色する点で、そのため壁画などにはあまり使用されなかったようです。
天然の硫化水銀が辰砂、人工(合成)硫化水銀がバーミリオンです。
したがってバーミリオンは人工顔料の一種で、また鉛丹も人工顔料になる。
あと赤の顔料として弁柄も欠くことができません。
弁柄の名はインドのベンガルに由来。
どちらも鉄分を含む石(赤鉄鉱=ヘマタイト)や土を焼いて採取するもので、入手が比較的容易で色として安定性があるため、古来より広く使用された。
黄系統の顔料
黄系統の顔料のうち、西洋ならならではのものはテールベルトです。
天然土性顔料で、良質なものはイタリアのヴェローナ近辺やキプロス島で産出。
イタリア・ルネサンスの早期に人物を描く際、肌色の下塗りとして用いられました。
黄土(オーカー)もまた文字どおり、水酸化鉄を含んだ黄色の土性顔料です。
さまざまな土地で広く産し、変色や褪色のおそれがないことから、世界中で古くより各種の分野で使用されてきた。
色味は産地により若干の差異があり、例えば洋画で用いるバーントシェンナ、ローシェンナなどは透明度が高く色味が濃い。
雌黄・雄黄と鶏冠石はいずれも硫化砒素で、一緒に産することが多い。
前者は鮮やかな黄色で、西洋においては古い写本などに使用されました。
後者は橙赤色で、西洋における使用はまれだったようです。
白系統の顔料
白系統の代表的な顔料には胡粉(シルバーホワイト)がある。
カキなどの貝殻を長年月野積みにして風化させたものをひいて粉にし、水でこして粒子の大きさをそろえたもの。
西洋でも、17世紀に著された「マイエルヌの手記」にテンペラ用の顔料として「カキの貝殻白」が挙げられる。
近代以前の西欧では、石膏、白亜、石炭もまた重要な白の顔料でした。
白亜は海中の微生物の死骸などによって形成された天然の岩石を砕いて作ります。
アルプス以上では油彩の下地に白亜地に用いたり、イタリアではビアンコ・サンジョバンニという名称でフレスコに使用されたり
しました。
黒系統の顔料
黒の顔料はなんといっても炭です。
日本では油煙と松煙が代表的です。
前者は菜種ほかの油を、後者は松を燃やして得た油煙になります。
これら以外にはブドウの蔓や幹を焼いて炭化させたバインブラック、動物の骨や牙を焼いて得た骨灰(アイボリーブラック)、鉱油などを燃やした際に出るすすを集めたランプブラックがある。
先に述べたように、自然顔料自体は一部を除けば西洋、東洋共に基本的には同じものを使用してきました。
異なるのは絵具の調整法、すなわち西洋では卵、石炭水、油を、日本画では膠を使った点です。
たまたま両者の文化的土壌の違い、生活様式の差よって使用する展色剤が異なり、別々の展開を遂げたのです。
とりわけ大きな差を生んだのは「紙」の存在を知った時期の差でした。
まとめ
自然の顔料と絵具の関係について見ていただきましたが、古代に使われた顔料と現代の顔料の関係はそれほど違っていません。
むしろ科学の力が有利に見えます。
科学の進歩によって、人工顔料が開発されたことで、色の種類は増え、我々の表現の幅は格段に広がりました。
けれども、「自然の顔料の美しさ」は名画を見ると、とてつもない魅力を感じます。
現代の科学が生み出した鮮やかさはもちろん素晴らしいのですが、古代の絵画に見る宝石のような美しさには到底及びません。
そこに絵画の謎がたくさん潜んでいるんですよね。
このブログを読んで、絵の具についての何か「気づき」を感じた人もいるのではないでしょうか。
・絵が上手い人たちは、学んだことを時間をかけて実行している!!!