絵は筆遣いによって色んな表現を可能にします。
今回は16世紀~19世紀にかけて使われてきた技法の一つ、
ヴェラトゥーラと、20世紀の巨匠たちが用いた技法の一つフロッティを紹介します。
ヴェラトゥーラはティッツィアーノからヴェネツィア派に広がり、
19世紀のアングルまで幅広く使われてきました。
フロッティはピカソやクレーといった画家が淡い色を重ねて
リズミカルなタッチを強調する場合に使いました。
どちらの技法も現代でも役に立つ技法なので、知っておくとなにかと便利だと思います。
★ヴェラトゥーラ技法
不透明な絵画を、グラシと同じような方法で薄く塗り重ねる技法を、ヴェラトゥーラ、またはスカンブリングといいます。
グラシが彩度の高い色調をつくる技法であるのに対し、
ヴェラトゥーラは画面全体を不透明ぎみに仕上げたり、グラシを部分的に押さえるときに用いる。
16~17世紀の絵画によく使われた技法で、グラシとヴェラトゥーラを交互に繰り返して絵を完成させています。
当時は、指のはらを使ってこの技法を行うことが多く、画面に画家に指紋の跡が残っている。
画面全体を不透明気味にし、彩度をおとす
絵の完成近くに、画面全体に不透明なグレイなどの淡色でヴェラトゥーラして、
仕上げの描き込みをする方法があります。
全体の調子が沈み、柔らかい不透明な色調になる。
描画中、色調がうるさくなってきたときなどにも、利用できます。
16、17世紀の画家は、下絵の乾燥後、画面全体に薄いグレイをヴェラトゥーラして、
全体の色のバランスを整えることが多かった。
そのあと、グラシとヴェラトゥーラを繰り返して、細部の描き込みを仕上げたようです。
グラシ効果を押さえる
とくに肌を描くときなど、仕上げに白を加えて不透明にしたマダーレーキを重ねると、
落ち着いた肌の赤みが表現できます。
マダーレーキだけをグラシすると、光沢が出すぎて、肌のあたたかみや、感触が出ない。
このように、グラシとヴェラトゥーラは、用いる絵具が透明か不透明かの違いだけです。
フランス語ではヴェラトゥーラはグラシの一部と理解され、反対に、
イタリア語ではヴェラトゥーラの中に包括していることがある。
また、指先を使って行った場合のみ、ヴェラトゥーラという場合もある。
★フロッティ技法
フロッティ=すり込みを意味します。
絵画の乾いた画面に、少量の絵具をかすれるようにすり込むことをフロッティという。
画面の色調を落ち着かせ、整えるときに用いる技法です。
また、白いキャンバスの表面に、半透明の絵具をすり込んで、
淡い色の有色下地をつくることと、できたキャンバスをさす場合もある。
フロッティの下地をつくるときは、キャンバスの白地が充分見える程度に、
ごく薄くすり込むのがポイントです。
使用する用具は毛先が短く硬い刷毛や、豚毛の筆の毛先を切ったフロッティ用の筆を用いる。
これらのフロッティ用の刷毛や筆を、略してフロッティとも言う。
描き方のコツ
1・乾いた筆に、できるだけ少なく絵の具をつけて、画面にすり込む。
筆先に絵具をつけたら、一度、紙の上でこすって余分な絵具をとり、
つぎにムラがないようにするとよい。
筆を軽く押しつけ、たたくようにしながら、先を回転させるようにして、絵具をすり込む。
2・フロッティする画面は、乾いた滑らかな方がきれいにできるし、筆先も痛まない。
筆のほかに、指先や布などを使って同じような効果が得られる。
布にシンナーを浸み込ませて、ゴワゴワにしてフロッティする。
柔らかい布とは違った、ムラのあるかすかなマチエールができる。
まとめ
ヴェラトゥーラとフロッティは、
不透明絵具をすり込むという点で共通しています。
両方とも不透明な絵の具を筆や指先、
布などを使ってぼかしたりすることで得られる効果です。
どのような絵画にも使える簡単な技法ですが、
微妙な表現にはそれなりに技術が必要になってきます。
自分の作品になにか物足りなさを感じるならば、
この技法を使ってみてください。