テンペラ画の歴史

テンペラ画は、中世においては、板に描くための標準的な技法でした。

水に溶いたタンパク質が乾くと固着する、という性質を利用して、絵の具を固定する方法です。

卵黄がその材料として特に優れていると言われています。

中世の教会では、もちろん祭壇画に用いられることが多かったが、内陣の仕切板のような、教会内部の設置された木造の構造物に装飾を施すために使われました。

 

祭壇画としての役割

テンペラ画は、金地ともよく合い、中世以後の祭壇画では、型押し模様を施した金色の背地に、色鮮やかに聖人や天使を描き、美しく豪華に仕上げた。

シモーネ・マンティー二の「受胎告知」は、繊細な色彩が金地の装飾的処理と見事にマッチした作品です。

こうした祭壇画は、特に14世紀から15世紀にかけて隆盛をきわめました。

テンペラの場合、絵の具の層が乾きさえすれば、塗り重ねが可能だが、絵の具の層が完全に不透明になることはないという性質を持つっています。

このため、テンペラ画も、賦彩の手順に拘束があるうえに、制作途中の修正も難しいという、少し不自由な点のある技法です。

だが、この技法の持つ、明るく晴れやかな発色に捨てがたい魅力を感じている現代画家も少なくない。

 

油彩画家とテンペラ画家

15世紀になって油彩画の技法が確立すると、その便利さのために同じ板絵のジャンルでは、テンペラ画はだんだん用いられなくなる。

その一つに、油彩画には、絵の具想を半透明にも不透明にもできるという特色がある。

それが、陰影や光の効果を描き出すのに有効な手立てとなった。

ファン・エイク兄弟やレオナルド・ダ・ヴィンチのように、自然を観察し、それらをとらえることに強い関心を持っている画家にとっても大きな魅力でした。

しかし、サンドロ・ボッティチェリのように、15世紀の終わり頃になっても、その繊細な色彩効果のゆえか、テンペラ画で描き続けた画家もいた。

人体の丸みを表す陰影効果は、油彩画で見ると、グラデーション(階調)と呼ばれる明暗の滑らかな推移になっている。

これは、薄い色合いのついた半透明な絵の具の層の、微妙な積み重ねによって得られる効果です。

ところが、ボッティチェリの人体を見ると、その陰影は、肌色の上の白っぽいハイライトとごく細い筆で描かれた黒い線条が生み出す影から成り立っていることが分かる。

それは画面に接するほど近づいて見なければ確認できないほど繊細な技法です。

 

テンペラとは?!

テンペラとは「粉と液体をドロドロになるまでかき混ぜる」という意味のラテン語「Temperare」から派生したイタリア語です。

今日においては普通、卵で顔料を練って作った絵具とその描法を指すが、最も古くは油彩具も含めた絵の具すべてのことを意味し、18世紀半ばにおいても水性絵具の総称として使われていました。

つまり膠、アラビアゴム、カゼインなどの卵以外の展色剤で顔料を練ったもであっても、すべてテンペラでした。

中世の装飾写本、中世末からルネサンス期にかけて描かれた優れた祭壇画(板絵)、壁画には多くのテンペラの技法が用いられました。

ボッティチェリ、アンジェリコ、ウッチェロ、リッピ親子などの15世紀半ばのイタリア・ルネサンスの名画の多くはテンペラでした。

しかし、フランドルでは15世紀半ば頃より、イタリアでも15世紀末から油彩画が普及しはじめるにつれ、色の透明感、光沢面で劣るテンペラは小品やデッサンやエスキースには用いられたものの急速に衰える。

再び光があたえられるのは19世紀半ばになってからのことでした。

チェンニーノ・チェンニー二の技法書「芸術の書」がフィレンツェの図書館で発見されたことがきっかけとなって、かつての技術が再興されることとなった。

 

卵を使う技法

テンペラの決めてとなる鶏卵であるが、これは卵黄、卵白、全卵ともに使用される。

卵黄の場合は光沢のある仕上がりとなり、皮膜は柔軟性に富んで丈夫だが、黄色味の影響で色がやや重い感じになり、脂肪分を若干含んでいるため、完全に乾燥するのに3週間から6週間かかる。

卵白だけの場合は速く乾燥するので扱いやすい。

しかし描画後の造膜性にやや難があり、曲がりやすい薄手の神などに描くときは注意を要する。

どの部分を使うにしろ、卵は最初に完全に溶きほぐしておき、卵白が入るときは泡を捨てて下澄み液を用いる。

防腐剤、活性剤として酢酸などを加えるが、卵液は長くは保存できないので、その日に調製したものはその日のうちに使うのが原則。

こうして作った展色剤を大理石やガラスの練板上で顔料とよく練り合わせて絵具とする。

 

テンペラ画の支特体

テンペラの支特体には紙、羊皮紙、板、壁、布地などが使われました。

いずれの支特体を用いるにせよ、絵具がよく固着するには描画面は吸収性がよくなければならない。

板面の場合は消石膏(二水石膏)や白亜を膠で練ったものを塗布するなどの処理を施します。

ちなみにイタリア・ルネサンスの板絵の祭壇画では、石膏地の一部に金箔を施し、さらに瑪瑙(めのう)で表面をよく磨いて輝きを与えた面にテンペラで彩色することもありました。

 

まとめ

テンペラ技法には拘束的な決まりがいくつかあり、一般的に普及していません。

ですが、この技法の長所を知る人は、研究を重ね使用しています。

美しい色彩はボッティチェリやミケランジェロの絵画に見ることができます。

また、現代でも油彩画との混合技法もありますが、油彩テンペラというものもあります。

サンシックンドオイルなどを混ぜ合わせて作るテンペラメディウムがそれで、油彩画のような透明感出すことを可能にします。

レオナルドからレンブラントの時代まで、このメディウムは油彩画にも用いられていたと考えられる。

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