人物デッサンの基礎知識

モデルを前にして、どのように描くかは、描く人に委ねられた問題です。

しかし、初めて人体を描くという場合、どこからどう描き始めるのかはなかなか難しいかもしれませんね。

ガイドブックに頼らず、まず観察を手掛かりに多く描くということも心構えとして大切なことで、「見よう見まね」ということも大切です。

日ごろから古今東西のデッサンを見るように心がけ、自分の目を良質のものにしていくのですが、ガイドブックに従って基本的な方法を習得してみることも一つの方法でしょう。

どちらにしても、一つの小宇宙ともいえる人体を描くことによってその魅力を発見していくとともに、人体の持つ形のバランスや明暗を把握しながら、紙の上に生み出される線やトーン(調子)、さらにはムーブマン(動き)、フォルム(形態)などの魅力を発見していってもらいたい。

ここでは、初めて人体を描く人を対象に、描写上の描き始めやすいと思われる最小限の方法と、さまざまな要素について述べている。

 

デッサンと人物

ここで紹介することすべて、順序だててクリアされるべきというものではない。

実際には、描くなかで、これらの要素はそれぞれ関連し合ってり、逆に邪魔になったりすることもあるからです。

多く描く経験から、そのことに気づいていくことも必用で、たとえば「量」がなければと思い込み、ついにその美しさを見失ってしまうとつまらないことになってしまいます。

そして、「美術解剖学」は人体の骨格と筋肉の関係について、描写上・表現上の参考とすることは大切なこと。

デッサンには、描く経験を通して技術を習得するだけでなく、その中から描く人のものの見方や感性を広げ深めていく大きな意味合いが含まれている。

実際に対象を描く経験と共に、さまざまなデッサンに触れ、自分の描いたものも描きっぱなしにせずに見直してみることが必用です。

そこにそれまで気づかなかったことを見いだしていくことができれば、自分のデッサンをさらに描き進めていくヒントとなる。

時間をかけてデッサンすると共に、クロッキーのように短時間に描くことも行う方がよい。

まず、見ることから、そして対象をよく観察する意味も含めて、できるだけ客観的に描いてみることから始めましょう。

一口に客観的といっても難しいには違いないが、人体の形がどのように成り立っているのか、全体のバランス、表面からは見えない骨組み、量感や動き(ムーブマン)をどうとらえるかといった基本的なことを追求しながら、モデルの表情や存在感に迫ってみよう。

 

形と骨組み

形を探る線

目の前にモデルが立っている。

どのように描いていけばよいのか、表面に見える形を通して、表面に見えない骨組みも探ってみるように心がけましょう。

まず全体の状態をよく見てみる。

たとえばまっすぐ立っているのか、あるいは上半身と下半身が腰を中心にねじられていて、そこに全体の中での大きな変化があったり、それに伴って腰の高さが左右で異なっていたりなど・・・

こういった観察を繰り返しながら全体の形の骨組みやバランスをとらえるように描いてみる。

 

全体を見ること

最初から全体の形を一目で見ることは難しいが、繰り返し見て描く事で身につけるようにする。

そのため、次のようなことをヒントにするのもよいでしょう。

1・最初からあまり細部にとらわれず、例えば頭・頸・胴・腰・脚部など、体全体の大まかな形のバランスをとらえるようにする。

2・アウトラインだけでなく、骨組みをとらえるように、体の動きを表すような仮定の線を引いてみる。

3・思い切って息の長い線で描いてみる。

この際、線が間違っていると思ってその部分を消して描くよりも、形のバランス、リズムをとらえるつもりで、できるだけ息の長い線を引くように練習するとよい。

もちろん長ければよいというのではなく、モデルと自分のいた線を見比べ、自分の線とモデの存在感がつながってくるようにとらえることが大切です。

4・関節部、頭、頸、胴、脚部・腕などのつながりや変化をよく見る。

「全体を見る」ということは、形のバランス、頭から足までの形の動きをとらえる上で、また、例えば表情を顔のような部分でのみ描くのではなく、形全体のものとしてとらえる練習としても大切だと思う。

ただし、時には顔の表情が持つ魅力を描いてみることも大切であることは言うまでもない。

こういった、全体を観察に基づき大きくとらえる練習は、明暗やトーン、ムーブマンのとらえ方でも共通することだから、繰り返しくことで身につけるようにしてほしい。

 

量と明暗

量感

量感(ボリューム)は、普通、明暗をとらえ描くことによって表現される。

明暗は形の表面に光があたることによって、視覚にとらえられるものです。

ここでも光源の方向をもとに、初めから部分的に細かな影を描くのではなく、全体を見る中で、対象に現れている明暗の秩序を大きくとらえるようにする。

明るい部分、中間の曖昧な部分、非常に暗い部分というふうに見てみるのもよい。

明るさや暗さはさまざまな強弱の段階や、光の方向によってその面積も異なり、全体の中での明暗の比較もしながら、画面から少し離れ、突き放して自分の描いているものを見てみることも必用です。

そのようにして、明暗もまた大きな比較の中から、量感や魅力的なアクセントを生み出すものとなる。

 

注意点

石膏デッサンをかなり描いてから、人体デッサンを始める人の場合にようみられることだが、明暗を「面」を手掛かりとしてとらえようとすると、生きた人体を描いているにもかかわらず、非常に硬い表現になってしまうことがある。

これではモデルの持つ生命感、柔らかさは表現できません。

「面」は量感を表現するうえでの、一つの手掛かりには間違いないが、方法はモチーフによって自在に発展させ展開していくことが大切です。

 

動きと形

体を曲げたり、よじったり、両足の位置を変えてみることで、静的な形とは異なった動き(ムーブマン)が生まれます。

動きは左右対称(シンメトリー)以外のあらゆる形の中に、かすかな動きの気配からダイナミックな視覚的に激しい運動を示すものまで、さまざまな人体の持つ形の魅力を現す。

多くの場合、我々が形が持つ表情を見つけるのは、それに現れる変化を手掛かりにしているといえる。

同時に我々と同じ「生きた形」を通して、人間と向き合っていることもあり、この感覚が人体を描いて行く上で、とりわけ意味を持ち、人体を描く魅力につながっていると思う。

形の変化やそれに伴うリズムを、輪郭線とともに骨組みを意識して見てみる、そして描いてみることも大切。

形のつながりやムーブマンを見るとき、関節は非常に大切で、曲げた腕、脚部など、関節部分の変化を十分観察してみましょう。

実際に、さまざまな関節部や接続部は、その部分の描写をしてみると非常に変化に富んだものであることが分かります。

また、関節の変化は、しばしば表現上のアクセントをもたらし、静かに立ったポーズの中で片肘だけ少し曲がっていたり、あるいは重心を片方の脚にかけた膝の曲がり具合などは、何気ない日常的なポーズでありながら、形全体に美しく微妙な変化を生み出します。

 

トーン

実際の明暗の変化とは異なり、画面表現上で必要とされる濃淡、あるいは強弱などの変化をトーンと呼ぶ。

日本語では調子とも言っています。

広い意味では画面全体の持つ印象について、例えば柔らかいトーン、激しいトーンというふうにも使われる。

我々は、、いろんな思いをもって対象を見つめ、描いているが、それに現れる表現はどこかで深く描き手その人と結びついています。

対象を感じる意識の問題ではなく、実際にそれを紙の上に具現化しようとするときの、鉛筆の持ち方や筆圧などは実にさまざまなものがあり、そこに独立の世界が展開されるきっかけを見いだすこともできるでしょう。

 

まとめ

人体デッサンの難しさは、どこにあるのか。

そのことを考えるとき、すべてのことに気づき観察しながら描いて行くことが大切です。

初めて人物デッサンに挑戦する人は、どのように描けばいいのかわからないかもしれませんが、描く意味をよく理解することから始めるようにしましょう。

実際、油彩作品を描く場合は、元の人物デッサンを基本に描いて行きますが、絵画上はデフォルメをしたりして絵画的な魅力を引き出すようなことも行います。

なので、デッサンをする場合は、真面目にすべてを理解して描く必要がある。

なぜかと言うとその経験は、後の自分の作品に現れることになるからです。

今回の基本を理解して、実践での「人体のデッサン力」を高めていってほしいと思います。

 

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画家活動をしています。西洋絵画を専門としていますが、東洋美術や歴史、文化が大好きです。 現在は、独学で絵を学ぶ人と、絵画コレクター、絵画と芸術を愛する人のためのブログを書いています。 頑張ってブログ更新していますので、「友達はスフィンクス」をよろしくお願いします。