一般的に油絵の印象は、重圧でボリューム感ある絵具の魅力だと思います。
しかし油絵具はその昔、今の印象とはまったく違う性質だったのです。
初期の油絵は薄塗りで描かれていました。
そして薄塗りの油絵具はどんどん発展していき、
19世紀には今の油絵の原型が誕生します。
初期の油絵具はどのような性質で、どのように描かれていたのか?
そして、16世紀のスフマート技法とは?
油絵具の透明度と光沢を生かす
初期の15世紀の多くの油彩作品は、溶き油を多く用いて薄くのばした絵具で描かれています。
明るい地塗りの上に、薄い絵具を重ねては乾かし、重ねては乾かし、
非常に長い時間をかけてガラスのように張りつめた、光沢あるマチエールをつくっている。
こうした薄塗りの技法は、油絵具の透明度や艶、堅牢性などの特徴を、最大限に生かしたものといえる。
19世紀、印象派の出現は従来の油絵技法を根底から変えました。
自然の瞬時の輝きを描き出すための、早描きが選ばれ、大胆な混色は不透明な色層を生んだ。
また、艶消しのマチエールを得るために、一滴の画溶液も混ぜない、というようなさまざまな試みが現れます。
このような近代画の流れの中で、絵具の透明性を生かして輝くようなマチエールを生んだのは、ルノワールでした。
ルノワールに学ぶ薄塗り
晩年に描かれたルノワールの作品は、まさに色彩の芸術家と呼ばれるにふさわしい。
目のつんだキャンバスに、柔らかい筆で溶いた絵具を均一に重ね、
つやつやした透明なマチエールをつくっています。
また、出来る限り混色を避け、描き直しや加筆をせず一気に描いているため、
鮮やかな色彩と堅固な画面が保たれています。
ローズ・マダーやピンク・マダーのような透明度の高い絵具は、
一度に厚塗りして強い色を出すことはできない。
これは、亀裂や退色の原因になります。
薄塗りで、何回も塗り重ねることによって、透明で鮮やかな色が描ける。
キャンバス地を生かして描く
画面全体を均一に薄塗りすると、落ち着いた静かな印象が強くなります。
同じ薄塗りでも、キャンバスの地をそのまま残してハイライトの表現をしたり、
凸部の光の反射や透明感の表現には極力薄塗りをしたりする。
このように塗り方に変化をもたせることで、豊かな表現の画面をつくれます。
ただ、描き込みが不足して弱々しい絵にならないように効果的にキャンバスの地を生かすことが大切です。
薄塗りは筆の選択がポイント
筆の毛質には豚、イタチ、牛、狸、馬などがあります。
油絵具の粘りには、筆の腰の強さと弾力性が必要です。
・豚毛
もっとも硬く腰が強い硬い系の代表が豚毛です。
豚毛には毛先が枝毛になっており、絵具の含みがいい。
日本産、中国産、東南アジア産、などが販売されているが、
できるだけ、柔らかい毛の筆を選ぶようにしましょう。
毛が硬すぎると絵の具が乗せにくいのと、綺麗なタッチが残せません。
手でさわって心地よいものがオススメです。
・イタチ系の毛
軟毛系の代表で、柔軟性に富み、細密な仕事に最適です。
高価なので、買う時は慎重に選ぶこと。
とくに丸筆の場合、描画中、穂先が常に鋭くとがっていることが必要です。
イタチの毛質は、冬の寒い季節にとられたものが最も良質でしかもコリンスキーと
呼ばれるイタチのオスの尾の毛が最高といわれる。
製法上では、使い込んで毛先が擦り切れても常に新しい毛先が出てくるように、
微妙に毛の長さを変えて毛組されています。
・その他の毛
牛毛は、豚毛とイタチの毛の中間の硬さで、馬毛より腰の強く使いやすい筆もあります。
狸毛は、イタチの毛に代わる高価な軟毛の筆として、利用度が高い。
リス、馬はぼかしに使えるが、塗るには腰が弱いので描きにくいと思います。
スフマート(ぼかし)
スフマートとは、ものの形を輪郭線の内側に描かずに、
煙の中に柔かく溶け込むように描く技法です。
輪郭線で形を区切らずに、もの自体の厚みや存在感、周りの空間を描こうとする方法です。
煙を意味するイタリア語(FUMO)からきた言葉です。
線遠近法と空気遠近法
スフマートは、空気遠近法から生まれた技法です。
14、15世紀の初期の油彩では、モチーフをはっきりした輪郭線で区切り、
その内側だけを立体的に描いていました。
遠近法が研究され、眼に見えるのと同じに遠いものを少なく、近いものを大きく描くようになるが、
その遠近を線だけで透視して描く方法を、線遠近法といいます。
それに対して、空気や明暗を色彩の変化で描き、画面に距離感を表現する遠近法を、空気遠近法という。
この手法は、ルネッサンス時代から盛んに取り入れられ、輪郭線はあいまいになります。
レオナルド・ダ・ヴィンチの作品が好い例で、輪郭線は消え、遠景は煙ったように描かれています。
このように、スフマートは、空気遠近法の発見によって生まれた技法といえる。
まとめ
薄塗りの技法に興味がある方は、絵具の使い方、筆を選ぶ、キャンバス地を生かす、
の3つをしっかり理解して絵を描いていきましょう。
印象派の理論とが違法に限界を感じていたルノワールは、
ラファエロの作品に学び、そのルネッサンスの技法にヒントを得ます。
また、パスキンはスフマートのようにぼかしの技法で空気感を色彩表現しています。
現代の私たちもルネッサンスの時代の技法に大きなヒントを得ることができるでしょう。
あなたならこの技術を作品にどう応用しますか?