絵の下地は13世紀から、もともとは白でしたが、
16世紀のヴェネツィア派によって、下地に有色下地を使うことになりました。
キャンバスを使う時代になると絵画が大型化していき、
下地を有色下地にする方が制作のスピードに適していたからでした。
ここでは制作で有色下地を使う方法と、絵によって賢く下地を使い分けることを
学んでほしいと思います。
「有色下地」は明暗の差をつくりやすくする
市販のキャンバスは、ほとんど表面を白色に仕上げてあります。
これに褐色(黒味のある色)や青灰色などの色を下地として塗ると、
白地のキャンバスとは違った効果を得られる。
この有色下地のことを、インプリマトゥラといいます。
有色下地を用いると、個々の色の発色は下地の色の影響で沈んだ感じになるんで、
2~3回色を重ねただけで中間のトーンができます。
また、暗い部分は下地より、彩度の低い色を数回塗り重ねれば描けます。
反対にハライトの部分は、白などで強調すると、立体表現や奥行きの表現が大胆にできる。
白色下地は、絵の具の発色が鮮やか
白や明るい淡灰色を下地に塗ることを、白色下地といいます。
下に明るい白色があるので発色が鮮やかになり、新鮮で緊張感のある調和を生み出します。
有色下地の場合の制作は、下地の色を中間トーンにして、徐々に明暗の幅を広げてゆく。
しかし、白色下地の制作は、常に白色との対照があるので、描き始めの色のコントラストが大きい。
暖色の下地は、色味を柔らかくする
赤茶色や、ピンクがかった色などの暖色を下地に用いると、仕上がりの絵は温かく柔らかい色調になります。
濃い暗色を下地に用いれば、画面は渋く落ちついた色味に仕上がります。
絵の具の色は、常に下にある色味に影響される。
赤に仕上げる面の下に、赤の補色やそれに近い黄色などの色をおくと、深みのある温かい赤に仕上がります。
この要領で、仕上りの色を計算して下地の色を個々に塗りわけておく方法もある。
複雑な下地作りになるけれど、仕上り画面の色調は豊かで美しいものになります。
下地の色調と暗さをそのまま生かす
下地にローアンバーやイエローオーカーなどの彩度の低い中明度の色調を塗っておくと、
半透明色を1~2回重ねただけで色が深く沈む。
また、明るい部分は、最小限のハイライトで効果的に強調できます。
さらに、下地の色調の暗さをそのまま生かして塗り残し、
画面の一部として活用することもできます。
白色下地の白さを生かす
白色下地の場合も、キャンバスの地のままの白や、
下地の白をハイライトや明るい部分に残して、
薄塗りのまま軽く鮮やかな効果をつくれる。
とくに自然光の下での明るい画面づくりや、
絵の具の生の色味を生かした描写には白色下地は効果的です。
彩度の高いシャープな色調が得られる。
キャンバス選びのポイント
麻布が油絵のキャンバスとして使用され始めたのは、15世紀頃からでした。
麻は丈夫で耐久性があり、合成繊維と違って下地塗料のくいつきがよく、
木綿のように伸び縮みもしない。
この麻布に目止めの糊料を塗り、その上に白色の地塗りを塗ったのがキャンバスです。
・よいキャンバスの条件
◆亜麻か大麻の良質の麻布であること
◆厚塗りするには、荒目で厚地のものを使う
市販のものは極細目、細目、中目、荒中目、荒目、大荒目の6段階があります。
とくに絵具を厚塗りする場合は、荒目で厚地の方がよい。
下塗りに亀裂が生じても、織糸にぶつかって広がりにくい。
・キャンバスは3種類ある
油性キャンバス(非吸収性)
絵の具を吸いこまず、式とりが簡単にできる。
エマルジョン・キャンバス(やや吸収)
絵具や油分の一部が下地に吸い込まれる。
描画の初めに水性絵具を使うことができる。
水性キャンバス(吸収性大)
油分をよく吸収し、艶消しの効果が出る。
描き始めに水性絵具を使える。
テンペラ画にも使える。
まとめ
有色下地は16世紀末から19世紀まで一般的に使われてきました。
印象派の出現によって、白い下地が復活しました。
現代では目的に合った方法を用いることが重要になっています。
キャンバス選びから下地についていちど自分の作品を
生かせる方法をじっくり模索してほしいと思います。