「線と色」で自分らしさを出す

絵画作品の線と色は画家の魅力そのものです。

作品で画家の個性を出すには、この線と色の比重が決め手になる。

今現在でも「線と色」の比重については、

絵を描いている方たちの悩みの1つのように感じます。

「絵はただ好きなように描けばいい」と思うのが普通なのですが、

作品を制作している方たちには大きな問題のようです。

これまでもメルマガ登録者からそのことで多くの相談メールがありましたので、

ここで線と色彩について少し書きますね。

(ここで言う色彩とは油絵具を使った輪郭線を無くした表現のこと)

 

ルネサンス時代のデッサン派と色彩派

古代の絵画は、線で形を描くことから始まり

絵具は薄く塗り重ねて、色の美しさそのものを平らに表現していました。

それがルネッサンスの後期になると油絵具は発達していきます。

イタリア北部のヴェネツィアでは、

練り合わせ剤を用いて厚みのある(現在に近い)油絵具を使用し始めます。

また、支特体も絵具のくいつきが良くなるように、

板から麻布を使うようになりました。

このような油絵絵の発達によって、厚塗りの油彩独特の表現が可能になっていきます。

それまでは、線でしっかりデッサンした絵に、何層もの薄い絵の具を重ねるという仕事が主流でした。

ルネッサンス前期でも絵具によっては厚塗りが可能な色もありましたが、

長い歴史の中での絵画では薄塗りの時代が長かったのです。

ルネッサンス時代、フィレンツェには線の達人が沢山いました。

彼らの代表者にはボッティチェリレオナルド・ダ・ヴィンチミケランジェロが有名ですね。

線の達人、ミケランジェロの作品はイタリアでは大人気で官能的なポーズの人物像は「神の如き芸術家!」と人々から賞賛されていました。

ミケランジェロの名声が世界中に広まっていたとき、ヴェネツィアでももう一人の革命者が現れます。

それがティッツィアーノです。

彼の絵には、優美な色彩のトーンによる柔らかい人物表現にありました。

輪郭線は排除され、絵の具は部分的にかすれたようなタッチで描かれている。

ミケランジェロは線の達人、ティッツィアーノは色の達人、

両方の絵は互角の評価を得ていました。

どの時代でも絵画の流行というものがありますが、

大フレスコ画時代はミケランジェロが、巨大油絵時代はティッティアーノが

それぞれ長く歴史的に賞賛され、尊敬されています。

線を主張する彫刻家と、色を重視した画家、どちらもその代表ですが、

2人の絵画空間と造形美はそれぞれ後の歴史に大きな影響を与えました。

 

 

線とデッサン

絵の基本としてデッサンはとても大切です。

絵画芸術を志す者にとって、デッサンは出来て当たり前というのが絵の世界の常識です。

画家の描く線はその人の性格まで表すといいます。

画家の線は絵の方向性やテーマに応じて様々であり、自由な表現が可能です。

線に特徴がある画家の絵は、とても魅力的で強い印象を与える力がある。

線を重視する場合、画家は輪郭線を軸に色を色面で構成していき、組み立てていくのが普通のやり方になる。

線が得意な画家はハッチングを使い、筆も絵の具を薄く重ねる方法を選ぶ傾向があるが、

大きな刷毛で描く場合でも輪郭線をはみ出すことはない。

ホルバインカナレットアングル、バーンジョーンズなどは、特に線の美しさで有名な画家であり、

彼らの描く絵には素描の美しさが絵の魅力となっている。

絵の具に至っては、筆の運びは均一であり、色のトーンの美しさを意識して描かれています。

 

 

色彩とタッチ

画家の色彩感覚は生れつき人によって違うものです。

また絵筆のタッチも同じくその人の手腕によるし、結果もその時の心の状態によってかわってきます。

色彩感覚が優れている画家は、デッサンも太い線で大きく捉え、色のタッチで大きく空間をつくっていきます。

線の画家たちのような色を重ねていく塗り絵式ではなく、筆を遣ったタッチで造形していく描き方になります。

また、筆と絵具の物質性を生かすので、偶然性を上手く利用して技法とし、

感情を絵筆に込めて絵の具と一体化しやすいのが特徴になる。

有名なのがエルグレコベラスケスドラクロワターナーなどと印象派の画家たちである。

彼らは空間を意識して、それを自由な眼で対象を色の塊で表現しました。

彼らの絵は自分が感じとった色を画面に置き、絵に動きを感じさせることも目的としている。

 

画家の性格と気質

画家の性格と気質によって、絵の描き方は大きく違う。

繊細で緻密な画家もいれば、大きく捉えて大胆に筆を振るう画家もいる。

また、シックな空間を好む画家がいれば、明るい色彩で画面を埋める画家もいる。

画家の描く作品は、目的、気質、実力によって様々な結果を生みます。

絵は楽しく描けないと続けるのが苦しくなることもあります。

自分の目的、性格、実力を熟知して制作するようにすると、

緊張した気分にも余裕が生まれます。

 

・絵を描く目的

今、自分はどのような理想の世界を描きたいのか?

何を描きたいと思っているのかを具体的にして決める。

 

 

・画家の気質

画家は気質があって、様々なタイプがいる。

のんびりマイペースな人、短気で大胆な人、真面目で几帳面な人、、、、

それによって画家が描く線やタッチ、造形、テーマはみな違う。

自分の気質を意識して、性格に合いそうなことを実践していくほうがよい。

 

・今の実力

油絵を始めるなら今の自分を分析して、よく知ることです。

学びながら制作するには、学んだことをうまく活用していかないといけません。

学ぶことは楽しいと同時に苦しくもありますので、

油絵の実践ではなるべく楽しむことも念頭に入れて描いて下さい。

 

1・今の自分の実力に応じてできることは決まって来るので、

学んだことからコツコツ始める。

 

2・好きな事を中心にして学ぶと専門的な知識と実力が備わりやすい。

インプットしたことはすぐにアウトプットしていく。

 

3・まずは得意なことから始めると成果が出やすいので、

やってみたいことから始める。

 

以上のことをしっかりしておくと、

次に進んで描きたい形、遣いたい色、などが見えて来ます。

線はどのようなものがいいか?、

絵筆は何を中心に使うのか?、

絵の具はどのような塗り方がいいのか?

など、自分が理想とする絵を想像していきましょう。

調子よく描き慣れていくと、どんどんよいテーマが浮かんで来るはずです。

 

 

今の自分に必要な方に比重を置く

絵を学んだり制作している場合は、今どの段階でやっていてこの先どのように描きたいのかを

今描いている絵を見て、頭の中でシュミレーションしてみるといいでしょう。

線と色のバランスは今の自分の絵を見て、

どんな線が必要なのか、

どんなタッチが必要なのか、

輪郭線は不要なのか、

絵の具の厚みがどくらいがいいのか、

どこを省略するのか、

なにを中心にするのか、

自分の感覚で画面をよく見て判断して調節する。

制作はそのとき、そのときの自分の判断で絵を動かしていくと、

自然にいい方向に進んでいけます。

もちろん、何度か失敗を繰り返すことにもなるので、

根気よく取り組む姿勢が求められますが。。。

失敗するのは当たり前と考えてめげずに描いていきましょう。

どんな画家でも経験することなので失敗を恐れることはありません。

芸術家は何度も失敗しないといい作品をつくれないものです。

 

まとめ

絵の線と色はどちらも大切です。

絵の描き方で貴方の個性を表現するには、この2つをうまく扱えないといけません。

もちろん抽象画などで色だけで表現したり、線だけで表現することも自由です。

具象絵画を描く場合は、どんな画材を使って描くかで表現の選択の幅は広がりますが、

油絵を描く場合は線とタッチの比重をよく考えて色を入れていくようにしましょう。

線と色を上手く遣った画家にはルーベンスがいます。

彼のデッサンは素晴らしですが、それ以上に油彩の絵の具のタッチと色彩は美しい。

画面の線と色の比率と、絵の具を操作しやすい絵筆を選んで、油絵を自分のものにしてくださいね。

確かなバランスで個性を出していけると、貴方らしい芸術が生まれます。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

画家活動をしています。西洋絵画を専門としていますが、東洋美術や歴史、文化が大好きです。 現在は、独学で絵を学ぶ人と、絵画コレクター、絵画と芸術を愛する人のためのブログを書いています。 頑張ってブログ更新していますので、「友達はスフィンクス」をよろしくお願いします。