幼いころに、近くの人よりも遠くの建物や木が、小さく見えたことを不思議に思ったことがあると思います。
距離を認識できず、大きさの絶対を信じている子供にとって、大人は自分より大きく家や木はさらに大きいもので、小さくなるなど考えられないのは当然でした。
子供にしたら、不思議な魔法のような感覚だったでしょう。
そこで、絵画を描くうえで必要な遠近法を紹介します。
遠近法とはどのような方法と種類があるのか見てみましょう。
絵画の遠近法その1・方法論としての遠近法
生活の中での遠近法
遠近感が生活の中で、距離と大きさの判断手段となるにつれて、当たり前のようになります。
考えてみれば原感覚としては子供の感じ方のほうが正しいのかもしれません。
視覚的空間遠近法を理解しよう
自由に描ける絵画の要素としては、視覚的遠近法に従ったものと、心理的遠近感の両方があっていいわけです。
表現といった場合必ずしも視覚的遠近法に固執する必要はないのですが、デッサンを始めた場合、まず自然を観察し、視覚を認識する意味で視覚的空間遠近法は十分に理解しておくべきでしょう。
絵画の遠近法その2・形態の遠近法
透視図法の使い分け
透視図法とは、近づけば大きく見え、遠ざかればだんだん小さくなり、最後には点になるといった、三次元での視覚の原理を利用した、形の図法です。
一般的写生のデッサンでは、二点透視図法的に描かれていることが多いのですが、厳密には現実の世界は三次元なので、写生的デッサンを行うためには三点透視図法が正しいでしょう。
ただ、よほどモチーフが縦に巨大であるか近距離から見ない限り、二点透視図法的に見やすいという感じで理解しなくてはならないとおもいます。
水平線の透視図法
水平線は画面上で確認できますが、その端に存在する消失点は、画面内に存在することは少ないので、描く作業を通して遠近感に慣れていく必要があります。
また、自然な遠近感を描き出すためには、特に左右への消失点を意識し、無理のない感じを出すことが必要です。
絵画の遠近法その3・透視図法の種類
一点透視図法
消失点が一点だけに集束する、現実にはあり得ませんが意識的に効果を求める場合などに用いられる特殊な図法です。
二点透視図法
一本の水平線の両端に二つの消失点を持ちます。
一般的によく知られる図法で、一番自然に見えます。
三点透視図法
左右、高さの三方向への消失点を持ち、三本の水平線を持つ図法です。
現実の見え方に則するものですが、多くの場合、下から見上げたり、上から見下ろす形の場合に使われます。
あまり強調しすぎると現実味のない形になってしまいます。
また、二点透視図法同様、水平線を直径とした円内が、正確な透視図法範囲と考えた方がいいでしょう。
絵画の遠近法その4・トーンの遠近法
空気遠近法とは?
空気遠近法とは、トーン(調子)を利用した遠近法をいいます。
近くにある山は、木々の形もはっきり見え、さまざまな色を見分けることができますが、遠くの山は、細かな部分がだんだんと見えなくなり、青みを帯びながら、ぼやけて見えてくる経験は、誰にでもあるでしょう。
このトーンの見え方を画面上での形の描写と、調子の付け方に取り入れたのが空気遠近法です。
レオナルド・ダ・ヴィンチ・のスフマート(ぼかし)の技法
空気の層に含まれる、塵や水蒸気に光が乱反射し、遠ざかるほどそれらが増え、ぼやけて青みを帯びるのです。
その原理が絵に用いられたのは、古くは、レオナルド・ダ・ヴィンチのスフマート技法であると言われています。
実際には、調子の強弱のみではなく、線の扱いにも注意しなければ、遠景が強くなりすぎる場合があります。
当然、遠ざかれば、色、形などの情報が減ってきますが、ただぼかせばいいと思うのは危険であり、しっかりと遠景、中景、近景を比較した上で、画面効果として扱うことが大切です。
絵画の遠近法その5・その他の表現
遠近法によらない作例
形態や調子の遠近法を学ぶことは、観察を深め、自らの眼を養う意味で不可欠ですが、あくまで、再現的な写実性を目指したデッサンや観察のためであり、表現としての一形態であることを忘れてはならないでしょう。
ここでは、視覚的遠近法であり、心理的遠近法については書いていません。
純粋な表現が目的であれば、意識的に自由なデフォルメ(変形)や大胆な省略を行うことで,詩的表現性や軽やかな温かみのある表現が可能になります。
まとめ
絵画芸術の基本となる遠近法はルネサンス時代の画家や建築家、彫刻家によって研究されました。
なかでも建築家ブルネルスキ、画家のマンチーニ、ピエロ・デラ・フランチェスカ、彫刻家のギベルティが有名です。を研究者の目で学ぶのなら、ルネサンスの芸術から勉強していくといいかもしれません。