イタリア・ルネサンスのレオナルド・ダ・ヴィンチ、北方ルネサンスのデューラー、フランドルのファン・アイク兄弟などの絵画に見る風景は、驚くほど緻密な観察記録やスケッチに基づいて表現されています。
ですが15,16世紀半までまだ風景画という、独立したジャンルの絵は描かれていませんでした。
彼らは、宗教画の背景として、風景を描くことしか許されていなかったのです。
風景画を描いた画家
17世紀になりルネサンス時代の宗教改革の影響もあり、人々は自分たちの生活を中心とした絵画を描き始めます。
そこで新たなジャンルとして宗教画から、独立したのが風景画でした。
風景画は外国の風景を見ることができることで、当時の人達の関心をそそるものになっていきます。
また、自分の街をアピールする画家も出て、風景画は庶民の間で人気の絵画になりました。
ですが、絵画の頂点は神話画と宗教画で、風景画は静物がと同じくレベルの低いジャンルとして取り扱われていました。
ここでは、ルネサンスのブリューゲルからバロックのロイスダールまでの風景に関心を寄せた画家たちを紹介していきます。
ブリューゲル、ルーベンス、レンブラント、クロード・ロラン、ロイスダールの5人の巨匠の作品を順番に見ていきましょう。
ブリューゲル 「雪中の狩人」1565年
この冬景色はブリューゲルの作品のなかでも最も有名と言っていい作品です。
1年の労働の様子を描いた6枚の月暦画シリーズの最後の1枚です。
わずかな獲物を背負って帰路を急ぐ狩人、その向こうには、旅籠の人々が冬を象徴する「殺された豚」を焼いている姿も見えます。
空間の広がりと奥行きの深さが、前景の大胆なフォルムで協調されています。
この風景はアルプスを描いたもので、広々とした景観はブリューゲルが細かくスケッチしたアルプス風景がもとになっており、それが絵のメインテーマとなりました。
前景の狩人たちも、圧倒的な景色にほとんどのみこまれているように見えます。
フランドルでは、このように方法で12か月を描く伝統があり、16世紀半ばにブリューゲルによる風景画が誕生していました。
ルーベンス 「ステーンの城館のある秋景」1636年
ルーベンスは1635年にステーンの城館を買い、身近な田園とその日常生活を取り上げ、同時代のオランダ風景画家たちと共に風景画史に新時代を描いてします。
同じ身近な風景画を描いても、ルーベンスの絵では大地を強調し、地面が画面の半ば以上を占めている点、空の割合が多い同時代のオランダ風景画家とは対照的です。
オランダの画家たちが描く風景に対して、ルーベンスの風景には、神の目から見下ろされた世界としての風景画の伝統が受け継がれています。
ルーベンス晩年の風景画は、毎年夏を田舎の屋敷で過ごす悠々自適の生活の中で、第一に自分自身の楽しみのために描かれたと考えられます。
このほかにも、いろんな風景画と鉛筆によるスケッチも描き、バロック最大の天才は風景画でも、ほかの画家を圧倒しています。
レンブラント 「風車」1643~46年
レンブラントの「風車」は巨匠が描いた数少ない風景画の秀作です。
それまでは、どこかおどけた点景として描かれてきた風車を、独自の存在感をもった対象として描き始めたのはレンブラントとロイスダールでした。
登場人物が聖人から庶民へ変わるとともに、画家の視点も神の目の高みから地上へと降りてきます。
レンブラントの風景の地平線はフランドルの伝統よりさらに低く描かれ、神秘的な光と影で表現されています。
また手前にはレンブラントがスケッチをしたときにの状況を、そのまま絵にしています。
坂道を降りてくる親子と洗濯をする女性と男性、そして船をこいでいる人。
船着き場で、親子と男性は向こう岸に渡るのかもしれません。
このようにレンブラントは風景に日常の生活を描いて見る人を楽しませてくれます。
ほかにもレンブラントは、銅版画で風景をたくさん描いていることで、現在も注目を浴びています。
クロード・ロラン 「日没の港」1639年
クロードの絵には聖書や古代ギリシャ・ローマ神話に題材をとったものが多く、主題は常に風景であり、風景画に関してクロードは最高の巨匠の1人でした。
特に、光を扱う感覚の鋭さの点では並ぶ者がなく、光によってそれぞれの微妙に異なる雰囲気を創造しました。
初期の作品にはいくつか港の情況を写したものがあり、それらは日の出や日没が効果的な役割を果たしていることで有名です。
この絵の構図は、これより2年前にローマ教皇ウルバヌス8世のために制作した絵とほとんど同じです。
二年前の絵には、船に掲げられた旗に教皇一族の紋章であるミツバチが象眼されていたのに対して、ここでは依頼主がフランス人であることを示すため、船の旗にはフランス王家の紋章であるユリが描かれています。
(フランス王家のユリの紋章)
ケンカをしている隣の帽子のおとこは、この時代にもう眼鏡をかけています。
この絵は実際は、もう少しオレンジがかっていて、夕日がとても美しい絵です。
イスダールダール 「ハーレムの眺望」1670年
ロイスダールはたいてい、絵に署名はするが日付けは入れてなく、彼の作品制作の年代を確認することは難しいとされています。
しかも、最も早い時期の作品ですらきわめて熟達した腕前が見られるため、なおさら難しいのです。
彼は、オランダ風景画家のうちで最も多作であっただけでなく、最も多才でした。
どのような風景でも、完璧な構図を作り絵としての魅力を、引き出すことを可能にしています。
ロイスダールは画歴の終わり近くになってパノラマ風の眺望に興味をもつようになり、この絵と同じ主題で数点絵を描いています。
したがってこの絵はロイスダールの市民としての誇りの表明とみることができます。
砂丘の近くの泉の水に浸された長い布が、野原に広げてさらされているところを描いています。
遠景の建物は、ロイスダールが埋葬されたシント・バーフ聖堂です。
もう一つ、ロイスダールの絵の魅力は、トロ~とした絵具と筆のタッチのマチエールの美しさはオランダの油絵の魅力を最大限に表現できているところにあります。
現代では、あのような絵の具の質感にすることは不可能で、メチエの魅力もロイスダール絵画の魅力の一つです。
まとめ
ブリューゲルからロイスダールまでの風景画を見ていただきましたが、意外にもルーベンスとレンブラントも風景を気分転換的に、好んで描いています。
そのほかデューラー、ヴァン・ダイク、ベラスケスという巨匠たちも水彩と油彩で風景を好んで描いています。
風景画の魅力は描く視点とテーマでいろんな表情を見せてくれます。
自然は、人間の心の気分や人生を写しているようで、古代から見る人の心を和ませてきたのでしょう。
※画質が悪いため実際の色彩とだいぶ違います。
ぜひ、機会があれば実物を見てほしいと思います。
・「名画の鑑賞ポイント」を紹介!NO1.(ブリューゲル、マネ、マンティーニャ)
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