一般的に絵画鑑賞は、どこを見るべきか、なぜこのように描いてのか、どのような技法なのかと、考えて悩み、絵画鑑賞を楽しめない人が多いことは実に残念なことです。
時代によって、絵の重要なポイントは違うのは当然なので、その時代が賞賛した画家たちの表現にスポットをあててみました。
ここで4人の巨匠たちの作品の、「名画の鑑賞のポイント」について解りやすく説明していきたいと思います。
「フラ・アンジェリコ」の金箔仕上
「アングル」の意図的な歪曲
「ピカソ」の衝撃の出発
「ホルバイン」の肖像画の役目
「名画の鑑賞のポイント」 金箔仕上げ
- フラ・アンジェリコ
- 「聖母の戴冠」
- 112×114.5㎝
- ウフィツィ美術館蔵
初期ルネサンスの画家たちは、祭壇画を飾るのによく金箔を用いました。
この「聖母の戴冠」から、フラ・アンジェリもその手法に優れていたことがうかがえます。
板絵に金装飾をほどこすには、まず金箔が絵に重ならないようにしなければならない。
金箔を貼る部分にはポールと呼ばれる鮮紅色の粘土を何回か塗ると、それが金色の濃度と鮮やかさを増します。
ポールの表面を磨いてから、金箔をかぶせ、線布で押さえてこすり、つやを出します。
こうして、金箔装飾は仕上げられました。
この作品では、フラ・アンジェリコは光をとらえるためにひじょうに細かい金の線を中央に埋め込み、輝く光線の効果を出しました。
光輪では、同心円を描くのにコンパスを使い、また、ジェッソ(石膏)の粒子を金の下において、装飾を盛り上がらせています。
聖人たちの衣服には極度に細かく金箔を配して金襴織を表現し、聖女たちの衣服では、金箔の上から軽く顔料を塗って、金糸刺繍の感じを見事に出しています。
「名画の鑑賞のポイント」 意図的な歪曲
- アングル
- 「アンジェリカを救出するルッジェーロ」
- 1819年
- 147×190㎝
- ルーブル美術館
アングルは、完璧なプロポーションの人体を表現した古代彫刻の美しさを絶賛しましたが、自分自身の作品では、体系をゆがめて描く事がしばしばありました。
これは、彼が古典主義風に描くことが出来なかったわけではなく、人物のプロポーションやポーズをゆがめることで古典主義的な美を実現して、自分の選んだ主題により大きな感情的インパクトを与えることが出来たのです。
この「アンジェリカを救出するルッジェーロ」は、アングルの手法を最もよく示した一例です。
題材となったのはイタリアの詩人アリオストの叙事詩「狂乱のオルランド」で、恐ろしい怪物に捕らわれたアンジェリカをルッジェーロがいかにして見つけ出すかが物語られています。
原作に従って、アングルはアンジェリカを理想的な女性として描き出し、その美しさを示すために体が正面に向くように描きました。
同時に彼女の苦しみを強調する目的で、頭部と腕をゆがんだ不自然な位置になるまでにねじ曲げて表現しました。
アンジェリカは、恐怖の表情で目を動かしながら、救いにきたルッジェーロの姿を何とかして一目見ようとする姿と、必死の苦しみを強調しているのです。
「名画の鑑賞のポイント」 衝撃の出発
- ピカソ
- 「アヴィニョンの娘たち」
- 1907年
- 244×234㎝
- ニューヨーク近代美術館蔵
ピカソはこの驚くべき作品によって、彼が近代美術における「アヴァンギャルド」の旗手であることを明らかにしました。
まさにこれは、広く一般的に受け入れられている伝統的な価値基準から絵画を最終的に開放するものでした。
現実の世界にあるものの幻想を、作り出す試みをいっさい拒否する不思議な空間感覚や、変形した顔や体を持つ恐ろしげな人物たちは、今日もなお人々の頭に焼きつき、心の不安をかきたてる力をもち続けています。
ピカソはかつて、「私はまず伝統的な絵画におけるものの見方で人間の要素を集めて、そのイメージをとらえる。次に、まったく予期しない、困惑せざるおえないようなやり方で、それを構成しなおす。その意外さと困惑はあまりに大きく、人々は疑問を抱かずにはいられない」と語っています。
この絵が発展していくのに伴って、ピカソはアフリカ美術から得た驚くべきイメージを取り入れて、最初の売春宿のシーンというコンセプトを変形させていきました。
しかし、この構図のなかでも最も決定的インパクトを与える部分は、右側です。
1人の人物のいくつもの外観が1つのイメージに組み立てられている。
これがキュビズムの誕生の前触れとなる革新的技法なのです。
マティスをはじめ、ピカソの親しい仲間たちでさえ、伝統的絵画の世界への挑戦であり、また彼らの考えをもパロディ化しているかのように見えるこの絵に衝撃を受けました。
「名画の鑑賞のポイント」 肖像画の役目
- ホルバイン
- 「クレーヴのアンの肖像」
- 1539年
- 64.5×48㎝
- ルーブル美術館
ルネサンス期には、肖像画は数多くの異なる役目を持っていました。
この「クレーヴのアンの肖像」は、彼女との結婚の交渉中にヘンリー8世が依頼したものです。
王は、当時ドイツに住んでいたアンをまだ見たことがありませんでした。
そしてホルバインの仕事は、王のために花嫁候補の顔を明確に、そして、そっくりに描くことでした。
(今でいう御見合い写真の役割)
そのことは、この肖像画が比較的単純であることに反映されています。
これはモデルを記念するために描かれたのではなく、彼女の関心や人柄はほとんど示されていません。
ホルバインの多くの絵のモデルとは異なり、アンは真正面を向いています。
そのポーズはきわめて単純で動きがなく、顔には表情がありません。
顔が穏やかなため、飾りの多い衣服の方が目立っています。
ヘンリー8世はアンの容貌に満足したようであり、結婚の交渉をまとめました。
しかし、実物に会った王は少なからず失望し、そして、彼女のことを「フランドルの雌馬(めすうま)」などと言っています。
この肖像画は、持ち運びやすいように羊皮紙に描かれている点がめずらしいところです。
この絵の比類ないちみつさや繊細な仕上げは、羊皮紙の上に描かれているためでもあります。
まとめ
4人の巨匠たちが工夫をこらして作品を制作しましたが、いかがでしたか?
時代によって、絵に対する考え方がまったく違いますね。
名画を見る楽しみを鑑賞者が知ることで、より一層画家の世界に入っていけると思います。
画家たちの知恵に楽しい名画鑑賞のヒントがあります。
・人物画を得意とした巨匠たち(ティッティアーノ、ベラスケス、グルーズ、ルブラン)
・「名画の鑑賞ポイント」を紹介!(ブリューゲル、マネ、マンティーニャ)
・「名画」の知識と見どころを紹介!(グリューネバルト、ベリーニ、ラファエロ、ハルス)