ギュスターヴ・モローの「出現(サロメ)」との再会

モローと言えば宿命の女を多く描いている画家です。

古代ギリシャ神話や聖書のお話を題材に、名作を描いているフランスの有名な巨匠です。

特にサロメは有名で彼はこのテーマを何枚も描いています。

その一つが今回日本で紹介されて大きな話題を呼び、会場は沢山の絵画ファンで溢れかえっていました。

日本では最近絵画ファンが増え続けているので、その光景を体験できてとても嬉しい気持ちになりました。

作品も良かったのですが、絵を真剣に見ている鑑賞者を見るのも僕の楽しみの一つ。

 

26年ぶりに見るサロメ

26年前に僕はパリのギュターヴ・モロー美術館を目的にフランスに行きました。

そのモロー美術館は、当時絵を学んでいた僕には勉強の種になる宝の美術館だったのです。

そこは彼が描いた多くの油彩画が大小壁一面にすき間なく飾られていて、デッサンや水彩、素描など細かい技術を全て学ぶことができる場所でした。

そこでひときわ目立つ作品の一つに今回展示だれているサロメ(出現)が飾られていた。

記憶ではそれほど大きな絵という印象はなかったのですが、今回2度目に久しぶりに再会して思っていたよりはるかに大きいことに少し驚きました。

26年も前なので仕方ないのですが、自分の記憶があいまいだったのには少し。。。

フランスの美術館での巨大な作品が多かったせいもあってか、モローのサロメはそれほど大きく感じなかったのでしょう。

ともあれ、彼の人気作品の一つをもう一度見れたことに感謝しつつ、その魔術的な油彩の使い方と大胆な絵具のタッチを入念に観察させていただきました。

 

素描家モロー

モローはアカデミーでも優秀な素描家であり、人物デッサンで名を馳せるほどの優れた作品と経歴を残しています。

オルセー美術館の「イアソンとメディア」は特に評価が高い作品で、彼の出世作「オイディプスとスフィンクス」と共にサロンで絶賛されています。

彼は鉛筆素描を得意とし、人物画を細かく描き込んで作品のための準備をとても真面目に行っていました。

素描の線は美しく、その素描は教え子たちに大きな影響を与えていた。

彼は教育にも力を入れており、その人に合う良い方法で指導していたといいます。

 

 

色彩の魔術師

モローはドラクロワの影響を受けていて、ロマン派の描く世界にのめり込んでいきました。

ドラクロワはルーベンスから色彩を読み取り、新たな色彩方法で新時代の絵画世界を描いた革命画家でした。

彼はモローだけでなくマネにも影響を与えており、新しい絵画の可能性を広げるほど影響力がある優れた巨匠だった。

モローは東方文化やオリエンタルブームの影響を受けており、その未知の国の装飾や色彩に大きな関心を持っていました。

そして、その色彩の配色を入念に研究して、水彩画で沢山の作品を描いていきます。

彼の油彩画は初期は古典的でそれほど色の数は多い方ではありませんでいたが、その影響から次第に色の数が増え続けていきました。

色彩だけでなく装飾にも関心を持ち、彼は古代の装飾を再現するがごとくあらゆる建造物、衣服など絵画空間をきらびやかな世界で埋め尽くしていきます。

彼の絵は15世紀のファン・エイクの作品のように、絵が宝石で埋め尽くされたような色彩豊かな絵画を描き出していった。

 

油彩画の新たな方向性に気づいていた

モローは弟子のルオーやマチスたちが目指す、新たな油彩の方向性のお手本になっていた。

モロー自身も弟子たちの考えている新たな思想と表現の可能性を理解していたのでしょう。

色彩による空間の配色がメインになる、色による省略された絵画表現を実験的に多く描いています。

その反面モローは装飾にのめり込んでおり、美しい線でそれを描き足しています。

絵具を自由に操ることができたモローは、かつての巨匠たちが行っていた画面の色の効果にも注目していました。

表現は絵具のかたまりによって省略され、絵の本質だけに目を向けていきます。

彼は常に物語を題材に描いているが、ほとんどの絵画は晩年になればなるほど写実的な内容は省略されている。

デッサン的な表現ではなく、色彩のみの表現に移行していきました。

その色彩は現実のものというよりかは、感情に任せた色合いになっていて幻想性をさらに強調しています。

若い世代の画家が見ている世界を、自身の絵画でも実践していくモローの考えは画家としての若さを感じさせる。

 

展覧会の内容が一般の鑑賞者向けではなかった

モロー展を見て今回感じたことは、この展覧会は「一般の鑑賞者には少し難しい」と感じました。

ほとんどの絵画はモロー美術館の作品なので、油彩の完成作が1点のみだったことです。

「エウロペ」はモロー特有の神秘性があり、古代ローマの絵画を意識して研究した作品です。

彼は古代ローマの壁画と古代彫刻をよく観察して、新古典主義的な発想を最大限に活かして描きました。

もちろんサロンでは高く評価され、古代ローマを思わせるその神秘性は他の画家を圧倒しています。

技法的には彼は優れた画家だったが、今回の展覧会では晩年の未完成作品が多すぎて、素人鑑賞者には楽しめない部分が多かったのではないでしょうか?

ほとんどの鑑賞者は説明のビデオを見ない限り、最後まで未完成の意図が理解できなかったと思います。

逆に画家を目指す関係者には、とても勉強になる展覧会だと思います。

19世紀の油彩画法を見ることはそうないのでこの展覧会は、そういう意味でも学生に多く見てほしい展覧会でした。

モローの鉛筆素描と水彩画、イメージ画などいろんな仕事を見る機会はそうないので、完成作品をもう少し多いともっと一般鑑賞者にもわかりやすかったのではないでしょうか。

 

まとめ

モローは古典を軸に作品を描いていました。

古代神話を題材にロマンを描いたのです。

オリエンタリズムとインド文化に関心を持ち、その幻想性は古代の絵画の表現を乗り越えて新たな神秘性を秘めています。

謎めいたその世界は、詩人を思わせる静かなささやきににた表現で、見る人をモロー絵画の世界に誘う。

ロマン主義から新たな表現に移行していく19世紀の時代の変化を、今回の展覧会ではあまり強調されていませんでしたが、

モローが活躍していた背景で、ラファエル前派、印象派、フォーヴィズムといった新しい考えをもった若者の世界が動き出していたのです。

彼はその背景の中核におり、時代の変化のはざまで幻想的世界と自己の現実と戦っていたのだと思います。

展覧会というのは過去の人間の生きざまと、時代の流れを再確認させてくれるとても大切な機会です。

絵画を愛する方は出来るだけ足を運び、過去や現在の文化を学ぶことにもっと積極的になって欲しい。

・ラファエル前派の魅力

・「フリードリヒ」憂鬱なロマン主義者

・フェルメールの「手紙を書く女」との再会

・ティッティアーノ 「音楽にくつろぐヴィーナス」

・カミーユ・コロー『モントフォンティーヌの思い出』を描いた詩的風景画家

・「ヴァン・ダイク展」 初めて見る西洋絵画

・ミケランジェロから学ぶ(17歳で神様に出逢う)

・ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」3つの秘密

・絵画の「テーマ」と「ストーリー」どちらも大切

・ルノワール若き日の愛と苦悩

・ゴーギャン 「我々は何処から来たのか、我々は何者か、我々は何処に行くのか」

・絵が上手い人たちは、学んだことを時間をかけて実行している!!!

・趣味の油絵を楽しむ方法

ABOUTこの記事をかいた人

テソン

画家活動をしています。西洋絵画を専門としていますが、東洋美術や歴史、文化が大好きです。 現在は、独学で絵を学ぶ人と、絵画コレクター、絵画と芸術を愛する人のためのブログを書いています。 頑張ってブログ更新していますので、「友達はスフィンクス」をよろしくお願いします。