人物を描く (P10) NO.8

絵画的な魅力を引き出すことは、制作でのかなめであり、画家の力量とアイデア次第で決まる。

優秀な画家はただ上手く描くだけでなく、絵の魅力を表現する能力が優れていると言われている。

それは、簡単な事ではありませんが、自分の美学と創造力によって生み出されるのだと思います。

まだ未熟であっても、その能力があれば画家としての道を切り開くことができるでしょう。

画力と共に、絵の魅力を引き出す訓練や勉強をすることを欠かさないように頑張ってください!

 

制作の流れ

作品としてのまとめの準備をする

次回が最終なので、今回は作品をまとめる準備段階に入る。

まだ描いていない首飾りと、肩にかかる髪の毛や服のひだのまとめなど、

作品として大切な部分を描き込んでいきます。

顏も少しずつ変化させて、全体の統一感を目指していきます。

 

色調を統一していく

メインの髪の毛の色調を統一していき、まとめるつもりで描き込んでいく。

服や顔などもそれに合わせ、色彩のばらつきをなくしてある程度仕上げていきます。

色彩については、もう何度も説明しているので、理解していただいたでしょう。

生徒さんたちも自分で色を作り、画面に塗っていくことでどこにどの色が必用かわかってきたと思います。

まだ慣れていない場合は、何度も描き直したり、描き続ける必要があります。

 

制作のポイント

首飾り

首飾りの描き方については、いろんな方法がありますが、今回はうっすらと軽く描くようにしました。

光と影の色調を上手く利用して、立体を出せるようにしましょう。

水滴などを描くときもこの方法を使います。

慣れると簡単に何でも描けるようになります。

 

髪の毛の追加

今回、肩にかかる髪の毛を描き加えます。

これも軽く絵の具を使っての表現です。

なぜ、はじめに描かなかったかというと、首飾りと同じく大切なメインの部分で、肩の造形を重視したためです。

肩が描けなければ、この髪の毛を描いても魅力が半減してしまうからです。

勉強にはまず肩と腕をきっちり描いて、髪の毛をうっすら自由に描く方が制作の表現の幅を広げることができるからです。

このような考え方ができるようになれば、自分の自由な発想も可能になり絵が面白くなります。

 

肩の角度の処理

角度的に肩の処理は難しい部分。

単純に見えますが、この肩は絵の「かなめ」です。

肩から首にかけての遠近と、肩の力強さで絵の土台が決まる。

土台ができていないと、いくら頭をしっかり描いていても

頼りない絵になってしまいます。

 

279・油彩本描き

イヤリングを描きますが、影をベースに丸みをつけるのがポイントです。

水のしずくを描くときと同じような理屈です。

光の方向から徐々にグラデーションされると考えましょう。

首飾りも、バーントアンバーで下描きしていきます。

 

280・油彩本描き

ダーマトグラフなどで、軽く下描きしておくといいと思います。

色は好みの色を使ってもいいのですが、画面上邪魔にならない色を選びましょう。

動画で気にいらない部分をふき取っています。

汚くなることがあるので、ルツーセを塗って絵の具を溶かし、布でふき取ると綺麗に元に戻る。

 

281・油彩本描き

丸を描きますが、ほぼ同じ大きさになるようにします。

奥の方にも描いてつなぎ合わせます。

なるべく一回で描くようにしたいものですが、はみ出てしまうと思います。

上手くいかない時は、ゆっくり修正しながら描いて行きましょう。

 

282・油彩本描き

グレーを使って軽く丸を描いて行きます。

この時、なるべく軽いタッチで描くようにしましょう。

丸を描くのは難しいのですが、細い筆で光を意識しながら描きます。

先ほどのバーントアンバーをうまく利用するようにします。

 

283・油彩本描き

胸元の飾り部分を描きます。

バーントアンバーで下描きしておいて、バーントアンバーにローアンバー、ローシェンナを混ぜ合わせる。

光の部分にイエローオーカーとホワイトを使い金の光を表現します。

この辺りは一回で軽く描きます。

影に隠れているので、それほど描く必要はありません。

 

284・油彩本描き

明るい光の部分を、グレーとネープルズイエローをまぜた色で描き込みます。

ホワイトを少し加えてもいいので、色を調節してみましょう。

つなぎ目が光っているので、感覚的に光を入れていきます。

光の方向に合わせてグレーの明るい色彩も加えます。

反射も意識して描くのがポイントです。

 

285・油彩本描き

細部まで、そのまま描き込んでいく。

飾りの光を上手くとらえることが大切です。

首飾りは、多少重いので服に埋まっている部分がある。

その部分を表現します。

アイボリーブラックにマルスバイオレットとウルトラマリンを加えた暗い色を奥と手前に塗って丸みを強調し、重みも同時に描いてみましょう。

 

286・油彩本描き

胸の部分を描き、奥行きを強調します。

同時に飾りの丸みも整えることもできますので、うまく利用しましょう。

服の色彩もよく見て形に立体感を作る。

首飾りに、ヴァンダイクブラウンを加えてみました。

 

287・油彩本描き

髪の毛にルツーセを塗って、色調を把握できるようにしました。

ここから肩からたれさがる髪の毛を描いて行きます。

この部分は絵の魅力を引き出す大切な部分です。

ヴァンダイクブラウン、バーントアンバーにマースオレンジを加えた色を塗りますが、慎重に描いて行きます。

 

288・油彩本描き

ここでもルツーセを塗って色調を把握して、上から下がる髪の毛とつなげる作業に入ります。

中間色と明るい色を上手く使い分けることで、髪の毛の動きを出すことができます。

色を溶け込ませて、自然な感じにしていくようにしていきましょう。

 

289・油彩本描き

光をつなぎ合わせます。

柔らかい筆を選び軽いタッチで描いています。

もともと必用でなかった肩の部分が埋まりました。

 

290・油彩本描き

下の部分も合わせて描いて行きます。

もともと暗い部分ですが、少し明るい光を入れてみます。

 

291・油彩本描き

髪の毛の描き方で、この絵の印象が大きく変わります。

ここでは、ドイツの画家たちのように、髪の毛に女性の魅力を注いでいます。

それほど明るくない部分にある髪の毛ですが、描き込まなければ画面のいちばん手前に出てきません。

 

292・油彩本描き

影の中に光があることを、表現しなければいけません。

ここからもう一度、バックをもうワントーン下げていきます。

 

293・油彩本描き

服の暗い陰影をつけて、髪の毛の存在を強調してみました。

アクセサリーと髪の毛に挟まれた肩の部分を、描き込む必要も出てきた。

左からの光があるので、右側の影の存在を忘れないように。

 

294・油彩本描き

少し服の色調を濃いめにしています。

紫色が目立つように、薄いグレーズのように塗っています。

ローズレーキをウルトラマリンにまぜています。

ローズレーキがない場合クリムソンレーキでも構いません。

 

295・油彩本描き

先ほどの色と同じように、ウルトラマリンとアイボリーブラックを少し多めにした色を塗っていきます。

うっすら溶け込ますのがいいため、少しラピットメディウムを使います。

 

296・油彩本描き

ここで腕を描き起こしていきます。

下塗りした色を利用して、ホワイトを加えながら服のしわを描きます。

 

297・油彩本描き

ハイライトの肩ですが、丸みがあり服のしわも少しあります。

髪の毛の位置が決まっているので、正確に服のしわも確定しておく。

もう仕上げてもいいという事です。

 

298・油彩本描き

服のしわは筆のタッチによっていろんな方法で表現できる。

服の布の素材によりますが、光の表現は生地によって大きく違います。

絵画的に、自分の表現のタッチを見つけ出せると、個性につなげることも可能です。

 

299・油彩本描き

細かい服の表現をしていきます。

トーンを合わせながら、面を作ることを意識していきましょう。

よく見て、彫刻的な表現に近づけると力強くなります。

 

300・油彩本描き

肩が落ち着いてきたので、髪の毛の表現に入ります。

肩は固定されたので、髪の毛の表現は自由にできる。

肩のハイライトに合わせて、髪の毛のハイライトを描く事が可能になりました。

ここから光をつなげていきます。

 

301・油彩本描き

光を強調することで、髪の毛が手前に出てきましたね。

ネープルズイエローとシルバーホワイトを上手く使いますが、

イエローオーカーよローシェンナも光の濃度によって使い分ける必要があります。

ルツーセを使ってぼかすこともできるので、いろいろとやってみるといいでしょう。

 

302・油彩本描き

髪の毛全体のグラデーションを意識しながら作業を進めていきます。

ハイライトに合わせて、髪の毛全体の色調を整えながら絵の具を塗りましょう。

 

303・油彩本描き

気にいらない部分や絵の具が濁っている部分は、思い切って下塗りをやり直して描き直しましょう。

ここまで作業経験をつめば、自由に描けるようになっているはずです。

ベテランになれば、髪の毛は一回で描けるようにならなければいけませんので何回も練習しましょう。

 

304・油彩本描き

アゴと首の幅を描き直します。

顔の周りの色調が整ってきたので、顔の影色もそれに合わせていきます。

画面の色調の調和を目指して制作を進めていきましょう。

影の色調次第で絵の雰囲気は変わるので、影色はよく考えて選ぶ必要がある。

 

305・油彩本描き

首飾りを描いたことで、首の雰囲気も変化している。

首の丸みや肌の質感や色調など、顏との一体感を目指して描き込みます。

 

306・油彩本描き

首裏の影に神経を注ぎ、空間を作りましょう。

イヤリングの周りにも、そのような空気感が欲しいと感じている。

今は色調でそれを目指します。

ここでは豚毛を使い、肌はライトレッドにネープルズイエローとシルバーホワイトを使います。

 

307・油彩本描き

基本色にホワイトとネープルズイエローをまぜたもので、中間の色調を入れてぼかします。

首と同じように、耳にも入れてみましょう。

 

308・油彩本描き

いままで影に埋もれていた部分にも、明るい色彩で髪の毛の色合いを出していきます。

肩にかかる髪の毛を少し強調してみました。

髪の毛の影も描き込み、流れも変化させます。

 

309・油彩本描き

流れを作ったら、光の流れも描き加えます。

描いた部分以外も、それに合わせた光の流れにしていきましょう。

このように、絵画的にアレンジしていくことで、独自の個性と美学を融合させることができます。

 

310・油彩本描き

大きな滝や川の流れのように、流れを作っていきましょう。

光の表現も3つのトーンをベースにすると、色彩がまとまりやすくなります。

 

311・油彩本描き

ここで、細部に手を入れていきます。

顔の表情を決めるために、色彩を整え目、鼻、口を仕上げていきます。

唇部分がまだ気にいらないので、微妙な変化を望んでいるところ。

 

312・油彩本描き

極端な光や影の部分を少し、肌色の中間色で押さえます。

ほほや口まわりの光と、肌の赤みを出し、目元の影を柔らかい筆でぼかしました。

 

313・油彩本描き

丸みをおびている部分を、柔らかい筆でぼかす作業をしていきます。

少し絵の具を置いて、ぼかすという感じです。

なじませながら、硬さを無くしていくと考えてください。

 

314・油彩本描き

唇の部分にライトレットとウィンザーレット、シルバーホワイトを使い明るい光を描きます。

口の周りの肌色とのバランスが大切で、唇が赤くなり過ぎないように注意が必用です。

 

315・油彩本描き

鼻の形を整え、少し高く感じるように面を変えました。

鼻の下の影をはっきりさせ、左右の形も固定しました。

すっきりとしたイメージにしました。

肌をカラ筆でなじませるように、少しぼかします。

 

316・油彩本描き

色が飛んでいる部分を無くし、自然な感じに。

まぶたの下の影をうっすら塗ります。

ヴァンダイクブラウンとピーチブラックを使いました。

ぼかす必要がある部分を、から筆(マングースなどの柔らかい筆)でぼかします。

ぼかすことで、硬さを和らげソフトな空間を出すことができる。

 

317・油彩本描き

ウルトラマリンとアイボリーブラック、ホワイトを少し使ってバックを塗ります。

暗めのバックにして、ホワイトで明るい部分にぼかしを入れると、軽い感じの光を表現できる。

 

318・油彩本描き

ウルトラマリンに少量のブラックと、ホワイトを入れて明るさを演出します。

この時、柔らかい筆を使い、軽く絵の具を薄塗すると下塗りの絵の具とよくなじみます。

 

319・油彩本描き

ここで、下塗りした黒い影と、光があたる明るい部分の間の中間色を作ります。

筆を軽く持ち、画面の黒の上から少し白が入った色で、軽くたたくようにしてなじませていきます。

綺麗に色が混ざったら成功です。

 

320・油彩本描き

前肩の色が出過ぎているので、色調を抑えて影の部分にも濃い色で影の感じを表現します。

明るい部分に気をつけて、そのまま腕の下の方まで薄く塗りこんでいきました。

右側の腕の影は特に暗いので、グレーズしておきます。

 

321・油彩本描き

服の細部を描き込みながら、塗っていきます。

ここでも影色に少し、明るい色を加えてその隣に来る色を作り、髪の毛の間の色にしています。

暗い色と明るい色の間の色が、いちばん難しい部分です。

 

322・油彩本描き

胸から腕にかけての遠近をつけるため、微妙なトーンで色を調節していきます。

胸の上の首飾りとの関係も視野に入れながら、その周りを描き加えました。

肩の丸みや肩から、胸にかけての流れに神経を使いましょう。

 

323・油彩本描き

薄く塗り重ねることで、うっすらした影色になっています。

それに、明るいホワイトを加えた色彩を入れて、滑らかな布の雰囲気を作っていきます。

 

324・油彩本描き

そのまま布のひだを描き進めます。

絵になるような雰囲気作りも必用な部分です。

光と影を利用して、演出することも考えてみましょう。

 

325・油彩本描き

髪の毛の部分もさらに描き加えていきます。

ルツーセを前もって塗っておき、色彩を把握できるようにしました。

バックとの関係を考えながら、輪郭部分に少し濃いめの色を塗りこみます。

 

326・油彩本描き

下地を塗ったハイライトにつながる明るい色を塗り、光を描き込んでいきます。

下の方にも反射的な光が入り、髪の毛の質感を出します。

ネープルズイエローとマースオレンジ、をうまく利用してください。

 

制作過程まとめ

今回の制作で、ほぼ仕上げに近いところまで描き終えました。

髪の毛のまとまりや体の動きと重量感、人間の存在感などが出てきました。

今回の制作の注意点としては、濁りを無くすことや色調の調節などです。

色調や色の幅で全体の柔らかさ、リアル感などにつながるので、今回のテクニックを使いこなせるようになりましょう。

筆の使い分けや塗り方なども練習すると、あらゆる表現が可能になります。

お疲れさまでした。

次回は最終回になります。