人物画を描く(P10) NO.1

人物の絵は、静物とまったく違う魅力をもっています。

生きている人間だけに、人体それ自体の美しさ、表情の美しさ、感情、性格や人体ならではの動き(ムーブマン)などが相まって、絵のモチーフとしてはつきない魅力があります。

人物画を楽しむために、今回は少女の半身像の描き方を紹介します。

はじめに

人物画は、古代から絵画表現に最も重要とされてきました。

神と人間を題材にして描かれた絵が、最重要と考えられてきたからです。

古代から神話画や宗教画を描けなければ、一流の画家とは認められませんでした。

また、当時肖像画家の仕事は重要とされ、お見合い写真のように描かれた絵を頼りに、結婚を決めているほどです。

偉大な人物や、上流階級の人たちは、家紋のために自身の姿を油絵に描かし後世に残すことを義務と考えていた。

現代の人物画は、より自由になり、人間の美しさや内面表現の手段として自由に描くようになりました。

現在の日本の絵画市場でも、人物画が売り上げ上位を占めるほどの人気があります。

人物画は、古代より美術コレクターの憧れの分野だといえるからです。

やはり男性コレクターが多いことから、理想の女性像を描いた絵画が人気があります。

最近は、現実的な絵もよく見かけますが、写真や映像の影響で新たな写実主義も誕生していまる。

ここでは、写真を参考に使うことはあっても、写真をそのまま描くようなことはしません。

あくまでの、古典的な油絵の本質を追求していきます。

 

何枚かデッサンする

モデルを使いデッサンする場合

モデルを前に描こうと思うと、最初に構図を決めなければいけない。

まず、モデルにいくつかのポーズをとってもらい、スケッチブックにデッサンしてみます。

このとき、キャンバスの大きさを考えて、どこまで画面に収めるかを考えながらデッサンしてください。

10号ぐらいの場合上半身ぐらいがちょうどいいので、人物の動きの美しさをそこなわないところで切るとよいでしょう。

 

写真を参考に使う

ポーズがきまれば、必ず写真を撮っておいてください。

光の流れや細かい部分の資料に必要です。

モデルがいない場合は、フリー素材や自分の好きな写真を参考にすることもできます。

僕が教える人物画は、古典的な絵を創ることをメインにしていきます。

写真のまま描写する写真的な絵は描きません。

写真を使ってそのまま描くと、写真を張り付けた感じになってしまいますので、できるだけそれを避けます。

写真をそのまま描くなら写真で十分なので、意味がないように感じるためです。

また写真は造形的ではなく、光と影を写し取った物なので、正確な形や細かい流れを把握するために使いましょう。

 

絵としての人物画を描く

名画に描かれた人物はモデルはいますが、半分は画家の理想美です。

肖像画ですらそのままではありません。

はじめに覚えれおいてほしいのは、絵は現実のままではないということです。

目で見た現実体験を、絵筆を通して表現すること、または作家の創造世界を絵にすることが目的です。

なので、作品では自分の美意識を最大限に組み合わせることが重要になります。

 

構図のポイント

今回の人物画は上半身なので、描くポイントは頭の上の位置からアゴの位置、首から肩の位置、髪の毛が重要になります。

ななめを向いているので、肩の部分が張り出し、首に少し動きを感じさせること、髪の毛に魅力を注ぐことの3つを頭に入れて制作してください。

人物と余白のバランスも重要なので、描き始めは慎重に行いましょう。

 

木炭で形をとり、明暗の調子をつけたスケッチを準備する

キャンバスに描く前に、画用紙かパステル紙に木炭鉛筆や鉛筆でイメージを完成させておきましょう。

僕は今回、パステル紙に木炭鉛筆で描きパステルで軽く色付けしました。

オイルスケッチなど自分の好きな方法でいいので、明確なイメージを完成させておきましょう。

今回は明確な顔を決めて描いていないので、経過を経るごとに自分の好みに整形して描いていきます。

写すだけなら訓練すれば簡単ですが、見ないで造形を造ることも学ばないと本物の画家にはなれないと思います。

これは一般的には教えていない名画の秘密の一つです。

制作について

今回の制作は、参考資料や写真は使いますが、人物はまったく違うので省略します。

僕は人間の骨や筋肉と光線の流れを見ているだけです。

ルネサンス的な考え方を基本にして、絵を制作しています。

僕の理想美と創造的なトローニー(イメージとしての人物画)です。

創造的な自分の理想美を描くのが目的なので、人物の顔もどんどん変化していきます。

最初からはっきり決めていませんが、もし描きたい顔がある場合はそれを元に描いてください。

写真とまったく同じ光と影、色彩でもありません。

デッサン的に描くのが大切で、骨や筋肉面、皮膚の色を意識して描くようにしましょう。

前半は写実にも使える描き方、後半は古典的という一度に2つの方法を学んでいただきます。

2つの方法を知って入れば、自分の制作方法を選んで追求していけると思います。

これを理解すると写実的に描くことは簡単に感じるでしょう。

写実的絵画はデッサンを極めて訓練していけば誰にでも描けますが、古典的な絵画はルネッサンス時代からバロック時代全ての名画を知っていないと描けません。

デッサンができる人は、見なくても人物を描くことができます。

僕はその手法の一つを紹介しています。

 

この授業でしてほしい勉強方法は

・動画で制作全体の流れを大きく見る!

・動画を見て、自分が使いたい部分を参考にする。

・制作過程を見て不要と思う部分は無視していい。

・動画で、いろんな方法を使っているので、その方法を盗む。

・筆の塗る方向を見る。

・僕の作品を同じように模写してみる

・模写が出来たら、次は自分の好きな人物を描いて行く。

と、このような事をして、自分のペースで学んでほしいと思います。

人物画の描き方は100人100色みんな違います。

ここでは、自分の人物画をつくり上げることに集中してください。

まずは自分に必要なことだけに目を向けてみましょう。

 

模写用の型

人物画の模写はデッサン力が必要になってきます。

まだ、デッサン力がない人は、この型をコピー拡大してキャンバスにトレースする。

そして、塗り絵式に描いていく練習をしてから、二回目は自分の力で素描してみましょう。

それができると、次は実際に自分の理想の人物画を描いていってください。

 

※油絵の具のニスやオイルが乾くと、反射がキツイ動画がありますが、カットせずに出しています。

手順としてだけ見てください。

後の同じようなことを、何度かしていますのでそれを参考にして、わからない場合は飛ばしてください。

全ての動画が大切ではありませんので・・・

 

キャンバスの下地

下地ですが、ここではファンデーションホワイトにローアンバーを少し入れて下地を塗りますた。

今回はアクリルジェッソを使いました。

下地は油絵具かジェッソで行うかは自由です。

今回は1層だけ塗りましたが、2層ほど塗ると画面に厚みが出ていいかもしれません。

バロック時代にはこの下地を使う人が多かったようです。

本当はホワイトの下地の方がいいのですが、初心者でも描きやすい方法と思い今回はこの下地にしました。

下地も画家によって好みがありますので、慣れてきたら自分独自の方法で描いていってください。

 

1・木炭素描

まず木炭で画面の中心を、つかんでいきましょう。

木炭は軽く持ち、人物を大きな固まりとして考えて、画面に収まるように構図を入れていきます。

大きく上下の幅を測って、正確にとらえていってください。

木炭は、布で何度でも消すことが出来るので、慎重に構図を決めてください。

 

2・木炭素描

頭の上は少し空間をあけたください。

全体の輪郭を大きく描き、骨格をとらえていきましょう。

両端の空間も、同じくらいの幅にします。

 

3・木炭素描

アゴの位置、鼻の位置と目の位置、口の位置を決めていきます。

おでこの幅、鼻の長さ、鼻の下からアゴまでは、三分割がほぼ同じ人が多いので目安として、測ってみましょう。

鼻の長さと眉毛の幅なども、同じくらいの幅です。

 

4・木炭素描

目、鼻、口、眉を描き込み、表情を出していきます。

首の位置にも注意してください。

続いて、髪の毛の流れも描いてみます。

 

5・木炭素描

大きな陰影もつけてみながら、いらない線は消していきましょう。

自分でどの線がいちばん正しいのかを、正確に判断して決めていくことが大事です。

 

6・木炭素描

ある程度決まれば、細部描写に切り替えます。

ここから木炭鉛筆で正確な線を描き込んでいきます。

鉛筆デッサンのように描いて行って下さい。

 

7・木炭素描

いつもは木炭だけの方が多いのですが、このような手順で素描していくことで、デッサンがまだ苦手な人も確実に描けるようになります。

測って大切なのは似せることではなく、あたりで骨の位置を正確に描くことです。

花の位置と形、眼と眉、口、アゴ、頬、耳の場所を決める。

木炭鉛筆は、ねり消しなどで簡単に消えますので、何度も描き直しが可能です。

デッサンがうまい人は、鉛筆で直接描いて行ってもかまいません。

 

8・木炭素描

耳の位置や首の付け根を正確にとらえましょう。

ななめに首が動く動作を感じさせる筋肉の動きで、絵の魅力がかわってきます。

木炭鉛筆も軽く持つのがポイントです。

 

9・木炭素描

大きな流れや影は木炭を使います。

明確な形が決まってない段階では、木炭鉛筆はまだつかいません。

 

10・木炭素描

目、鼻、口やアゴの下眉間のようなポイントになる部分は、強い確定線を引くようにします。

骨がある部分も強めの線を引いておきましょう。

 

11・木炭素描

ある程度形が描けると、次はホワイトのダーマトグラフでハイライトえお描き込んでいきましょう。

これで造形が分かりやすくなります。

これをすることで、絵の完成イメージが想像しやすくなります。

 

 

12・木炭素描

さらに明、中、暗に分けていきます。

下地を塗ったのは、このような工程を考えてのことです。

明るいハイライトと、影を描き込むと中間色が生かせるというわけですね。

このような勉強は、パステル紙を使ってもできますので、できればたくさん練習してください。

デッサンが苦手な人には、理解する早道になります。

 

13・木炭素描

油絵の具をのせると消えてしまうので、ここまで描く必要はありませんが、デッサンの勉強もかねて描きました。

参考にして初心者の方は、この工程を入れて同時に学んで行くとデッサン力もついていくと思います。

 

14・木炭素描

いちばん暗い部分から、その次に暗い流れを作っていきましょう。

細部と大きな面を意識して陰影を描き込んでください。

鉛筆の線の方向も考えて描くようにして下さ。

下描きが完了したら、全体にフキサチーフをかけて乾かします。

この段階で、写真を撮っておくといいでしょう。

今回僕は写真を撮るのを忘れていました。

 

15・油彩下描き

ここからは油彩で下描きをしていきます。

今回はカマイユ画でモノトーンの油彩の下絵を描きます。

使う色はバーントアンバー、アイボリーブラック、ローアンバー、シルバーホワイトです。

カマイユの下描きは、中世の時代から19世紀の終わりまで、使われていた方法の一つです

まずは、ビニールの筆で、バーントアンバーとアイボリーブラックを使い影から塗っていきます。

ペンティングオイルに、テレピンを入れてオイルを薄めて使います。

 

16・油彩下描き

濃いめの影から色付けしていきます。

素描と同じように、描いて行きましょう。

塗るのですが、描く気持ちで作業を進めていってください。

 

17・油彩下描き

この方法はルネサンス時代に、画家たちがあたりまえのようにしていた作業方法です。

塗り絵のような感じですが、下絵としては最適で、ほぼうまく仕上げることが出来ます。

バーントアンバーにアイボリーブラック、ローアンバーを入れて塗りこんでいます。

 

18・油彩下描き

髪の毛は豚毛を使っています。

筆は自分が描きやすいものを使ってください。

アンバーと黒をうまく使いこなして、部分に合う色を使うことが求められます。

 

19・油彩下描き

出来るだけ、大きめの筆を使いバックにも色を塗ります。

今回乾きを速めるためにフラマンシッカチーフを少しいれました。

そのため光沢で少し反射しています。

コーパル樹脂は画面保護に大きく役立ちます。

中からのひび割れを防ぐ効果があると言われている。

 

20・油彩下描き

シルバーホワイトで下地の、ハイライトの上に着彩していきましょう。

あくまでも下絵なので、リラックスして描いてください。

このカマイユで正確な造形を作り上げることが出来れば、

後の作業もレベルの高い作品に仕上げられるようになります。

 

21・油彩下描き

デッサンするように、造形がどのようになっているのかを頭に入れながら作業しましょう。

初心者の場合は、このように下描きを入念にしておくと、あとの作業もあるていど安心して進めます。

 

22・油彩下描き

いちばん暗いトーンと明るいトーンを、把握しておいてください。

明るい部分はホワイトを加えてローアンバーと混ぜます。

ここまで作業していると、ほわいとと、バーントアンバー、ローアンバー、ブラックの使い分けがわかってくると思います。

自分の感覚で作業をしていきましょう。

 

23・油彩下描き

豚毛の筆で全体をならしていきます。

豚毛は絵具を流動的に動かしたり、操る時に使いやすい筆です。

力強い下地を目指す場合いちばんよく使います。

 

24・油彩下描き

服のひだや首の後ろなどの濃い影をブラックをまぜた色で着彩していきます。

この時も、ただ塗るのではなく、造形を意識しながら立体的に着彩していきましょう。

 

25・油彩下描き

ローアンバーとバーントアンバーをうまく利用して色を分けたり、まぜたりしてトーンの表現をしてみてください。

この4色をうまく使いこなせるように訓練すれば、モノトーンの絵画を描く事も可能です。

 

26・油彩下描き

左の眼は影に隠れていて、捉えるのは難しい。

実際あとで、色彩を置いて行くのですが、形をよく理解しておく必要があります。

この下描きは、あくまでも自分のために行ってください。

今、どれくらいこの人物を理解できているかを、確認しているだけだということを忘れないように!

 

27・油彩下描き

あくまでも下絵なので、自分が理解していればここまで作業する必要はありません。

後に、慣れてくると、この段階をなしで描くようになるでしょう。

ですが、初心者の段階では、けっしてこの段階を外してはいけません。

面で色分けされた造形は、後の段階で色面となって顔の表情を作ります。

どの部分に何色が塗られるのかも、想像しながら作業していくことが大事です。

 

28・油彩下描き

この絵で大切なのは光線の流れです。

特に顔の光線のハイライトの流れを、よく考えて見てください。

この流れを見逃してしまうと、絵は平板な人物に近づいていきます。

光の流れのポイントを把握しておくように!

 

29・油彩下描き

この絵で難しい部分は首です。

首と肩の遠近、首とアゴの付け根などに注意を向けてください。

目、鼻、口、アゴ下などのポイントも見直しましょう。

 

人物画 NO1・授業まとめ

ここまでの作業は、一日から二日で完了できます。

木炭素描は、じっくり焦らず取り組んでください。

下描きの構図やバランスで、デッサンがくるっていないかをしっかりとチェックしてから、油彩の下描きに入りましょう。

デッサンの少しのくるいなら、あとで修正できますが構図はなかなか変更できません。

いちばん初めの人物の入れ方をしっかり行うことで、絵の出来が決まってしまうことをしっかり覚えておいてください。

今回モノトーンだけでの下描きでしたが、カマイユ画は油彩の基本なのでじっくり取り組んで研究してほしいと思います。

お疲れ様でした。

次回につづく・・・