風景画を描く (F10) NO.2

風景画は実際は、現場でデッサンや写生を行う。

環境の問題もあるが、描きたい場所に出かけ実体験して描くことで、写真だけでは見えない部分を自分の絵筆で表現することもできます。

バルビゾン派や印象派の時代から、現場主義が誕生しますが、それ以前は画材の問題もあり現場では水彩絵の具が使われていました。

印象派時代はさらに、自然光を重視した制作が主流になり風景画は一大ブームを巻き起こします。

その流れで現代の画家たちは好んで、現場で油彩やアクリル画を用いる人が多い。

風景画の楽しみを分かち合うため、団体で旅行をする画家たちもいるのはこのためです。

風景画は皆が同じ場所で描いても、描くポイントは各自違うのでいろんなことをお互い学ぶことができる。

 

写生はグァッシュを使い綿密に行う

油彩の画材と用具を、写生場所まで持っていくのはなかなか大変です。

そこで遠くへ出かけるような場合は、水彩絵の具で写生をしてきて、自宅で油彩にする方法をおすすめします。

水彩絵の具は、透明水彩絵の具と不透明水彩絵の具グァッシュがあります。

透明水彩絵の具は、あまり色を重ねないで描きますが、グァッシュはある程度重ねることができますし、乾きも速いので、グァッシュのほうが使いやすいでしょう。

また、油彩画の色合いに近い色合いでもあります。

写生のさいの大切なことは、ある程度細かい部分まで描き込んでくることです。

ラフなスケッチですと、油彩を描く段階で、どうなっていたのか思い出せないことがあります。

写生してくる場合は、参考にするための写真も撮っておきましょう。

 

写生は周りから描いて行く

写生をする場合、構図を決めたらスケッチブックに鉛筆で周辺から描いて行きます。

中心から描き始めると画面に入りきれないことがあります。

まず、絵の骨組みとなる水平、垂直、斜めなどの主な線(画面を区切る線)を描き、徐々に細部を描いて行きます。

この段階で画面を多少整理してもかまいません。

細かすぎる部分を省略したり、形を若干変えることもあります。

軽く明暗をつけたら、グァッシュで着彩します。

油彩にする場合、あとで困らないように、なるべくみえるとおりに着彩するよう心がけてください。

以上は現場で写生するための大切な基本です。

近くの公園など、絵にしたいところで実際にデッサンから始めてみてください。

 

制作のポイント

下描きとして割り切って考える

風景の下描きは、段階をしっかり計算していかないといけない。

まずは、前回と同じく固有色を塗りますが、下地の暗さや明るさを利用していくことを考えておきます。

自然の風景は、写真では写っていない光の色彩が多数存在しています。

写真では暗いだけだとしても、実際にはいろんな形や色彩を見ることができる。

 

空を先に描く

この風景画でいちばん大切なのは遠近法です。

前景、中景、遠景と三段階に分けていますが、まずは遠景から描いて行く。

なぜかというと、風景の難しさを無くすのが目的だからです。

初心者に一番難しいことは構図をとらえることや、遠近を出すこと。

風景画を自然に描きたいときは、奥から描いて行くと自然に遠近感が出やすい。

この絵でいちばん遠い部分は空なので、バックから描くようにします。

 

風景の構造を理解する

この風景の構造をまず理解するには、5つのパーツに分けて考えましょう。

・空と雲

・3つの建築物

・右側の木々と遠近

・左の木と緑

・水面と遠近

このように、大きく5つに分けて制作していくようにします。

各パーツの作業を順番に描いて行くことで、一日の仕事内容を充実させることができる。

 

46・油彩下描き

左奥から描いて行きます。

ホワイトを使い雲の白さを表現する。

この時、下地のグレーは濡れている状態です。

下地に混ぜ合わせながら絵の具を溶け込ませます。

 

47・油彩下描き

さきほどと同じようにホワイトとグレーを使います。

ブルーで雲をなじませてぼかします。

描いた部分が少し消えますが、気にしないように作業します。

 

48・油彩下描き

もう一度くらい部分を塗りこみますが、ブラックにブルーを混ぜています。

大胆にホワイトを入れて、明暗をつけて下地を利用して画面上で色を作る。

 

49・油彩下描き

白い部分を順番に塗る。

雲は動くのでぼかす感じで塗るといい。

グレーを使い暗い部分の色彩も塗っておきます。

 

50・油彩下描き

空色も上手く利用してみましょう。

奥行きを出しながら雲の立体感を描きます。

絵の具を混ぜ合わせながら雲の凹凸を作っていく。

 

51・油彩下描き

コバルトブルーとホワイトで空を塗ります。

雲の上にも薄っすらブルーをかけています。

これにより、雲が少しボケた感じになりました。

 

52・油彩下描き

ホワイトを入れ直して、明るい部分から形にしていきます。

立体感を目指して絵の具を塗り足していきましょう。

 

53・油彩下描き

奥から手前まで順番に作業していきます。

前後関係を見ながら、調整するようにしましょう。

絵の具は濡れているので、自然になじませやすくなっている。

 

54・油彩下描き

いったん描いて軽くぼかします。

青い空となじませることを考えてこの作業をしましょう。

 

55・油彩下描き

もう一層トーンを作ります。

雲と雲の間に空間を作るようにします。

新たに色をのせていくことで層が増します。

 

56・油彩下描き

雲の暗い部分にブルーを少し混ぜて描く。

手前に来るほど灰色の中の色彩は増えます。

まず、ある程度空の遠近を出しておくと、画面が自然に奥へ行きやすくなる。

 

57・油彩下描き

空も3段階の前景、中景、光景と考えるようにしましょう。

こうすることで、段階を意識した見方ができます。

ホワイトは後から入れて、点描のように絵の具を置くようにする。

 

58・油彩下描き

空を奥の方からある程度まとめておく。

風景画は奥から描くと自然に遠近が出ます。

木との境目をよく見ておきましょう。

 

59・油彩下描き

右側を描き足して置きます。

空のグレーは位置によって、微妙に色合いが違います。

ピーチブラックとアイボリーブラックを使い分けましょう。

 

60・油彩下描き

右側の雲の立体を出していきます。

見た通りではなく、自由に筆を動かして、自分の感情も表現してみましょう。

 

61・油彩下描き

光を意識して、雲の動きや表情を表現してみてください。

風を感じるような筆遣いをしてみましょう。

画面の全体の動きは空にかかっています。

 

62・油彩下描き

グリーンをべた塗していきます。

使う色は、サップグリーン、パーマネントグリーン、イエローオーカー、バーントアンバーなど、好みで組み合わせて作ります。

今回使う色をすべて使いこなすようにしてみましょう。

混ぜ合わせることで、限りなく多くの色彩を作ることができます。

 

63・油彩下描き

アンバーやバーントシェンナなどをグリーンに混ぜると茶系のグリーンになります。

イエローとブラックを合わせてもグリーンを作れます。

 

64・油彩下描き

絵具の厚みを出すために下地を塗り重ねます。

グリーンの色の幅は広いので、あらゆる色彩を混ぜ合わせておくといいでしょう。

 

65・油彩下描き

テールベルトにカドミウムイエローをまぜて黄色味を出します。

グリーンの色合いや表現は描く人の感性として考える。

緑は空と同じく、自由に表現してもいい部分です。

水面に映るグリーンは少し暗めに描いておく。

 

66・油彩下描き

柳の木は柔らかさを出すために、少し白を混ぜる。

奥にいくほど明暗がはっきり分かれます。

 

67・油彩下描き

黒と白を少し混ぜ、水面のぼやけを表現します。

あまり入れすぎると、濁ってしまうので少しだけ使うようにしてください。

 

68・油彩下描き

グリーンの段階を考えながら、絵の具をのせます。

光と影を比較して色を塗っていきますが、上に乗せる色を考えながら色彩を選ぶようにしましょう。

 

69・油彩下描き

水面うを表現するには、映る色と光も色彩を同時に描く必要があります。

下描き段階なので、だいたいのイメージで雰囲気を作ってください。

 

70・油彩中描き

サップグリーンをベースにした色を暗い部分に塗っていきます。

今の段階では、まだ印のような感じで、調子を見ている感じです。

 

71・油彩中描き

少しずつ細部の描写をして行くのですが、大きな面でまずは区切っていきましょう。

絵具を塗りながら、明暗をはっきりさせ立体的にとらえてください。

中心の塔には豚毛によるモデリングが必要です。

 

72・油彩中描き

中心に来る雲を描き込んでおきます。

この部分は大切な場所で、木や建物があるので、

まずは空の奥行きを描いておく必要がある。

建物の屋根や木の細かい部分を描く前に雲を描いておくと、

自然な遠近をつかむことができるからです。

 

73・油彩中描き

ライトレットとブラックなどで屋根の下地を塗ります。

左の大きな屋根はマースオレンジを加えます。

この絵の第2のポイントですね。

 

74・油彩中描き

小さな出窓の屋根もついでに描いておきましょう。

窓の形をデッサンしていきます。

軽く輪郭を描くようにしていくと、

自然に絵は形を整えやすくなる。

 

75・油彩中描き

くぼんだデザインをブラックとアンバーで形どります。

目の錯覚がおきやすい部分です。

ゆっくり見て描いて行きましょう。

間違っていても、後で修正できますので、思いきって描いてください。

ウルトラマリン、ローアンバー、ライトレット、ホワイトを使い影色を作りましょう。

 

76・油彩中描き

右の壊れている建物と塔の遠近を出します。

右からの光を考えて、明暗をはっきりさせておく。

左の獲物も、影になっている部分を暗い下塗りをしておく。

石の建物なので、絵具をしっかりつけていきましょう。

 

77・油彩中描き

明るい部分にパーマネントやサップグリーンを使って明るい緑をのせます。

水面との境目の部分も描いておきましょう。

大切な部分です。

いまはまだ、スケッチをするように描いてください。

 

78・油彩中描き

細い線を使い細部を描きます。

はみだしや細部の形の狂いなどは、バックを埋めるようにしてみましょう。

描くことと、バックを塗ることの両方を考えることです。

 

79・油彩中描き

壊れた塔や建物の細かい部分を描き、造形をとらえる。

細い筆を使って、崩れた細部の光をとらえ、明暗で形を作っていく。

 

80・油彩中描き

同じように使った絵具を、水面に塗ります。

鏡のように映る建物を描きますが、それほど明確に描く必要はありません。

大きな筆で、塗ってもかまわないので、絵の具をのせましょう。

 

81・油彩中描き

絵具をさらにのせていきます。

各部分にいろんな色をおくと、絵の色彩の幅は自然に広がります。

写真どおりではなく、絵画的に自分が望む色彩を塗ることも絵作りには必用です。

 

82・油彩中描き

ローシェンナとホワイトで出窓部分を描く。

ホワイトを少し使い、ハイライト部分や白い部分に着彩します。

 

83・油彩中描き

ホワイトで、雲の明るさを描き込みます。

少しずつ指でなじませながら作業していきます。

 

84・油彩中描き

シルバーホワイトとピーチブラック、アイボリーブラック、コバルトブルーを使い、

雲の色を作りホワイトをベースに色調を整えます。

2つのブラックを使い分けることで、色の違う雲を描くことができます。

 

85・油彩中描き

ここで、チタニウムホワイトを加えます。

チタニウムとシルバーホワイトを混ぜたり、上手く使い分けていきましょう。

ハイライトにはチタニウム優先で作業していきますが、黒を混ぜるときはシルバーホワイトを使う。

画面上で混ざりあうように描くのがコツです。

 

86・油彩中描き

空の雲の色彩を塗ってみます。

水面に確実映るわけではありませんが、絵画的ににどう見えるのか試してみます。

水面には木の色が一番多く映っているので、深い緑をどんどん塗りこみぼかす。

 

87・油彩中描き

テールベルトやサップグリーン、アイボリーブラックなどを使い筆先を利用したマチエールを作ります。

これは暗い部分の印にもなるし、後で絵の具を混ぜると自然に深い色彩にもできる。

いろんなことに使える方法なので、ここで紹介しておきます。

別に必ずする必要はありませんので、技術的なヒントにしてください。

 

88・油彩中描き

暗い絵具を緑の部分全体に施します。

自然に筆先を利用して絵の具をつけておけば、

あとで上からのる絵具の凹凸を作ることができます。

 

89・油彩中描き

右の木にも同じように作業していきます。

軽くぽんぽん筆を画面にのせてください。

 

90・油彩中描き

全体を同じように絵の具をのせました。

ラピットメディウムを使うといい加減で絵の具がのりやすい。

 

91・油彩中描き

いちばん手前の草の下地を塗っておきます。

水面にも暗い絵具を塗ります。

この部分は影になっているので、

下地として大ざっぱな感じで塗っておきましょう。

 

92・油彩中描き

テールベルトとアイボリーブラックを使い水面に映る部分を描く。

豚毛によるタッチを活かし、大きく広げて描きます。

木の影になる部分なので、全体を薄暗い感じにしておきましょう。

 

93・油彩中描き

縦と横を交互絵の具をのばしてください。

少し濁っても気にしないで描いて行きましょう。

パーマネントグリーンを使い明るい部分を描き込みました。

 

94・油彩中描き

同じように左側の水面のイメージを作っていきましょう。

明確に描く必要はありません。

前景を描く準備をするだけでいい。

 

95・油彩中描き

ウルトラマリン、ピーチブラック、少しのレッドを使い雲の影色を作ります。

ホワイトを使いグレー色で中間色を塗っておく。

ハイライトにはチタニウムホワイトとネープルズイエローを使います。

 

96・油彩中描き

このままホワイトを塗っていきます。

ぼかす感じで、絵の具を混ぜ合わせていく。

チタニウムとシルバーホワイトを混ぜて使ったりしますが、

基本はチタニウムをメインにしてください。

 

97・油彩中描き

筆先を転がすようにして雲の立体感を描いて行きます。

下地を利用しながら絵の具を塗りこみ雲の柔らかさを表現しましょう。

ちょっとしたことで立体感と遠近感を出すことができます。

 

制作過程まとめ

ここまで、ある程度雰囲気をつかむことができましたね。

雲の動きや遠近を利用して、奥と手前を段階的に描けるようにしましょう。

空をメインに制作を進めてきましたが、木や建物はラフな感じで描いておいてください。

空と木と建物の境目がいちばん大切です。

次回はまず、空と木の境目を描き込み、中景の描写をしていきます。

お疲れさまでした。