風景画を描く (F10) NO.1

静物画と人物画を経験したので、今回は最後の風景画の授業です。

薄塗りの技法である程度の基本がマスターできてくると、そろそろ本来の油彩画に入っていただきます。

風景画では、豚毛による大胆な塗り方も取り入れ、少し力強い作品にしていきたいと思います。

色彩の幅が一番必要な風景画は、絵の具の種類も少し増えます。

特にグリーンやイエローはよく使います。

その色を使い、たくさんの色彩を作る練習をしていきましょう。

 

ポイントをはっきりさせる

一口に風景といっても様々です。

建物一棟、あるいは一本の木を描いても風景画です。

一般に風景画は、近景、中景、遠景が同時にある風景が描きやすと言われてきました。

しかし、これはあくまでも一般論です。

描きたい風景、美しいと思ったところを描けばよい。

どのような風景を描くかによって構図が決まってきます。

一番大切なことは、どこを気にいって描くか、つまり、何に焦点をあてるかです。

画面の中でポイントとなるところをはっきりさせることが大切なのです。

 

風景画の3つの構成要素

風景画を構成する3つの要素といわれるのが水平線、垂直線、斜めの線です。

とくに水平線は大きなポイントになります。

一般的には、水平線を画面の下から3分の1くらいのところにすると落ち着いた画面になると言われます。

その水平線に対して、建物や木の幹など垂直の線が組み合わされて、さらに屋根やはりだした枝、山すそなど斜めの線が加わって一つの風景が構成されます。

・水平線

・垂直線

・斜めの線

 

構図の切り取り方

写生場所が決まったら、その風景をどう画面に収めるか、つまり構図が問題になります。

目の前の風景のどこをポイントにし、その上下、左右をどこまで入れるか考えなければなりません。

両手を四角い枠のようにしてのぞいてみるのもよいでしょう。

厚紙で画面を同じ比率に作った見取り枠のなかからのぞいて構図を決める人もいます。

いずれにしても、ポイントとなる部分を中心に、その周辺の三種の線(水平線、垂直線、斜めの線)をどのように生かすかを考えて構図を決めてください。

 

イギリスの古城を描く

今回初心者の為の風景画を描きます。

風景画と言えば遠近法が必用になりますが、風景画としてまだ優しい建物を中心に風景を描いて行きます。

そして、遠近法は簡単な空と水面にとどめることにしました。

中景に建物があることで、難しい空気遠近法を描かなくていいように考えました。

初めてでも静物画を描いたことで、多少の遠近を描けると思います。

建物を中心に草木を描き、水面と雲による遠近法を描くことになります。

手順どおり描くと簡単なので、イギリスの風景を楽しんで描いてみましょう。

2枚の写真資料を使い描きます。

自分のイメージに合う風景を作りあげていきましょう。

 

 

スケッチ

下絵としてのオイルスケッチですが、実際野外で描く場合はガッシュがおすすめです。

ガッシュも油彩によく似た感じに描けるので、是非試してみてください。

授業では、写真を使いますが、簡単な下絵は描いておきましょう。

 

1・オイルスケッチ

木炭素描はしておきました。

色彩だけですが、だいたいの手順と、雰囲気をつかんでください。

建物にはバーントアンバー、ローアンバー、ウルトラマリン、ローズレーキ、ホワイトなどを使いました。

建物の影色に茶系とブルー、レッドなどをまぜて影色を塗りました。

塔の部分はローアンバーとホワイトですね。

方法は静物のオイルスケッチと同じですが、風景は普段の僕の方法で描いています。

 

2・オイルスケッチ

建物の窓や暗い部分にアンバーを入れました。

水面も同時に描きましょう。

水彩画のように揮発性を多めに使うと筆運びはよくなります。

スケッチなので細かい部分は省略してください。

屋根にバーントシェンナとアンバーを使う。

緑はアンバーにビリジャン、テールベルトなどをアンバーなどと混ぜて使う。

 

3・オイルスケッチ

緑には、サップグリーン、ビリジャン、テールベルト、などを暗い部分に使う。

このときパレット上の茶系と混ぜて色を作ります。

明るくする場合は、イエローオーカーを少し入れるといいでしょう。

 

4・オイルスケッチ

水面の木の影を描きます。

少しブラックを入れたグリーンです。

同じように暗いグリーンを塗っていきます。

グリーンを混ぜ合わせ、イエローオーカーを少し入れた色を明るい部分に入れていきました。

 

5・オイルスケッチ

三色のグリーンを使い、いろんな緑を作ります。

このスケッチでは筆を軽く使うのが特徴です。

風景は、緑を使い分けるのと、遠近を考えて描いて行きましょう。

 

6・オイルスケッチ

いろんな色を入れていくと自然に絵はできていきますが、

建物の中心のポイントはおさえておきましょう。

この絵の中心をしっかり見せることで画面の力強さが出ます。

 

7・オイルスケッチ

あとはブルーで空を描きますが、紙の白さは残しておきましょう。

ウルトラマリンとグレーで描きました。

水面にも空色を塗っておきましょう。

これでオイルスケッチは終わりです。

今回は簡単に描きましたが、自分の頭の中で油彩画を

どのように描くのかをイメージできました。

 

モノトーンで下描き

人物画と同じように下地にモノトーンの下絵を描きますが、今回は木炭とホワイトのダーマトグラフだけです。

油彩画の細かい下絵は描きません。

カマイユ画で描く方がいいのですが、もう一つの方法を紹介します。

人物画で下描きの方法は前回しましたので、今回は省略してそのまま描きます。

そのまま描く分、下地がジェッソなので油を吸うというデメリットがあります。

 

8・油彩下描き

風景画を画面に収めるのは難しい。

今回は空と建物、水面の3分割を行いました。

木炭で軽く図り、上下左右をよく見て画面に収まるようにします。

木炭を軽く持ち、よく見てデッサンしていきます。

 

9・油彩下描き

中心の建物から描いて行きます。

円柱の塔が中心ですね。

底をまず描いて隣の大きな屋根の家を描きます。

水面との境い目が絵の基盤になる部分なので、そこをしっかり決めておかないといけません。

 

10・油彩下描き

塔に合わせて隣部分をだいたいで描いて行きます。

目の錯覚などもありますが、気にせず描いて行きましょう。

木炭でアタリで陰影を軽くつけて、イメージで描いて行きましょう。

 

11・木炭素描

中心の陰影と輪郭をつけて描いてく。

自然な流れで直線をとらえることから始めます。

縦と横の直線をよく見てみましょう。

 

12・木炭素描

右の壊れた建物とその周りの草木を描いて行く。

奥にいくほど暗いので、ハッチングで影の目安をつけておく。

一番大切なのは、中心の建物と大きな屋根です。

 

13・木炭素描

 

ゆっくりと細かい部分を描いて行く。

建物の屋根の角度に特徴があります。

細かい部分を描きながら、なるべく全体を大きくとらえていきましょう。

 

14・木炭素描

画面奥は木の影が多く、複雑な陰影の塊になっています。

ここでも縦と横の線を基準に描いて行きましょう。

陰影は大きな面として描く。

 

15・木炭素描

この空間は、塔が主人公と考えて描きます。

建物を描きそれに合わせて、木を描いて行く。

水面は鏡のようなものなので、垂直の線で表現しておきましょう。

ここでも縦と横の関係で描いて行きます。

 

16・木炭素描

二つの屋根の角度を決めます。

布を使い不要な部分は消して必要な線を残しましょう。

 

17・木炭素描

空に浮かぶ雲を描いて行きます。

雲はだいたいで流れをよみ、確実な形は必要ないので軽く描く。

ここにあるという存在を残す。

 

18・木炭素描

木炭鉛筆を使い、はっきりとした輪郭を描いて行きます。

大切な輪郭線で描き、絵のポイントになる部分を描き込みます。

 

19・木炭素描

鉛筆デッサンを描くように隣の部分を測りながら、比率をみてください。

縦横の幅を測って、形が合うようにしていきましょう。

木は大まかに描いてください。

 

20・木炭素描

画面を光と影のはっきり分けて描く。

明暗がはっきりしている方が、油彩画の下描きが進めやすいからです。

自分の頭で覚えておくことも大事ですね。

 

21・木炭素描

ホワイトのダーマトグラフで明るい部分にハイライトをつけておきます。

人物画と同じ要領です。

明るい部分に塗ることで、絵の雰囲気が明確になる。

 

22・木炭素描

木炭をぼかして雲の影の感じにしておく。

明るい光の部分を、ダーマトグラフで描き込む。

これで、木炭の下描きは終了です。

 

23・油彩下描き

バーントアンバーとローアンバー、シルバーホワイトを使い中心の塔の部分に着彩して行きます。

影の暗い部分をローアンバーで印を入れておき、ホワイトを入れた色で描いてく。

暗い部分から描いておき、まずは安定感を目指します。

 

24・油彩下描き

ローアンバー、アイボリーブラックにテールベルトを加えてバックの木の部分に色をつけておく。

手前の暗い緑や木々も描いて行きますが、テールベルト、サップグリーン、

ビリジャン、バーントアンバーで色を混ぜて、いろんな緑色を作ります。

緑の色は自分の目と感覚で、いろんな色調を作るように練習しましょう。

 

25・油彩下描き

ここではサップグリーンにイエローオーカーをまぜていますが、

そのほかの緑にも混ぜて色の幅を増やしてください。

下描きので、実際の色調よりかは暗めに色を作ること!

パレットにあるグリーンや茶色を混ぜてみるといろんなグリーンを作ることができる。

 

26・油彩下描き

木によって緑の色は多少違います。

あらゆるグリーンを混ぜてみたり、イエローやアンバー、ブラックなどもまっぜていろんな部分に入れていきます。

建物の影に、ローアンバーとブラック、バーントアンバー、ホワイトを混ぜて影色の一部を作っておく。

左の壁にはライトレットを加えた。

 

27・油彩下描き

ライトレットとローアンバー、ウルトラマリンなどを混ぜて壁色の暗い下地にします。

ホワイトで明るい部分の色を作ってください。

ちょうど人物画の基本色と同じ色彩ですね。

 

28・油彩下描き

ライトレットとバーントシェンナを使い屋根の下地にします。

塔の部分にも中間色をのせいていく。

 

29・油彩下描き

壁の明るい部分にバーントアンバーとバーントシェンナ、ホワイトを混ぜた色を塗ります。

壁の色はほぼ同じ感じの色を、混ぜて使っている。

色を作る時は、自分の感覚を活かしてほしい。

パレットにある色を感覚でまぜて加えてみましょう。

 

30・油彩下描き

奥はいちばん暗いグリーンを使います。

テールベルトとアイボリーブラックを使う。

サップグリーンでもよい。

写真では暗く見えるだけでも、実際人間の目で見た場合は多少の色彩の違いが見えます。

そのことを考えながら下描きをしていきましょう。

 

31・油彩下描き

豚毛でいろんな緑色を塗っていきます。

だいたいでいいので、少し深い感じの緑色を作って塗りましょう。

ここでは明暗だけで、大きく色を分けている。

32・油彩下描き

今回モノトーンの下絵なしで直接色を置くことで、オイルを下地が吸収してつやがなくなってくる。

でも、気にせずに描き続けてください。

ある程度描き続けることで、それはなくなります。

豚毛を大きく使い、絵の具を多めに使う練習をしていきましょう。

 

33・油彩下描き

水に映る緑も大きなタッチで描いて行きます。

木に使った色を塗るだけでいいので、上下に筆を動かして水面の感じを意識してください。

 

34・油彩下描き

パーマネントグリーンとサップグリーンなどを使い、緑の草の部分や水面に映る緑を描きます。

茶色や黒を使い影色を表現するのですが、この色は明るい部分にも混ぜて使えます。

水面の影は、実際のものより少し暗めに絵の具を塗ってください。

 

35・油彩下描き

ピーチブラックとシルバーホワイト、コバルトブルーを使い空の下地を作ります。

スケッチするように、雲の影にピーチブラックとホワイトで形を描きます。

光が当たる部分にはシルバーホワイトを多めにして塗る。

 

36・油彩下描き

コバルトブルーにホワイトを混ぜて空色を作ります。

この作業は誰でも経験があると思います。

大ざっぱに塗ってもいいのですが、手前を濃くしておきましょう。

 

37・油彩下描き

空に使った絵の具をそのまま水の表現に使います。

雰囲気を出しておくことだけを考えて、塗りますが空と雲の色彩も取り入れておきましょう。

ここでは下地として、絵の具を吸わせることも考えに入れています。

 

38・油彩下描き

乾かして奥の雲から描いて行きます。

ウルトラマリン、ピーチブラックシルバーホワイトを使います。

初めに中間色を塗っておきます。

ここでも3色をうまく使いこなすようにしましょう。

 

39・油彩下描き

奥の方から描いて行くと、自然に遠近が出やすくなるので、

なるべく空は奥から描くようにしましょう。

左奥にホワイトが多めのコバルトブルーを塗ります。

その延長で右側につなげる。

 

40・油彩下描き

そのまま空の遠近を描くのですが、大きく広がる雲の間に空間を作るのが目的です。

そのことを意識して、空の空気遠近法を作っていきます。

ここでも絵の具を多めにつけて、キャンバス目をつぶしていきましょう。

 

41・油彩下描き

単純な作業のように見えますが、グラデーションを意識して塗っていきましょう。

空の色次第で、この絵の雰囲気は変わります。

今までの描き方と違い、絵の具の流動性を活かす練習をしてください。

 

42・油彩下描き

右奥の雲の下描きをしていきます。

グレーを使い、明るい色と暗い色を同時に塗っていきましょう。

光は右上から差し込む感じです。

雲の上が明るく、下が暗いという理屈を頭に入れてください。

 

43・油彩下描き

雲の存在感を出すために、絵の具をたっぷりつけてモデリングしておきます。

雲はゆっくり描いて行くので、大きくとらえておいてください

手前になるほど暗さが増すと考え、こちらに迫るように描きます。

 

44・油彩下描き

手前まで描いたら、また奥に戻ります。

雲の中でも屋根の上にある部分が大切です。

雲はある程度自由に表現してもいい。

 

45・油彩下描き

風景画はまず、奥行きを出すことに集中するといい。

雲の動きにより、大気や空気を感じさせることができます。

動きがある雲は絵画的に、魅力を増す効果がある。

 

制作のまとめ

風景画を描くときは、基本的に遠近法を使った大きな空間表現と考える。

今回は写真を使いそれをカットしてから絵画としているが、

実際現場で描く場合は、囲いや区切りなどがないため構図を決めるのに苦心するでしょう。

まずは、この授業で前景と中景、光景を描く練習をしてみてください。

下描きは、中間色を利用しているので絵の具は乗せやすいですが、オイルの吸い込みが激しいことが欠点です。

ですが、ある程度絵の具をのせることで、頑丈な画面になります。

気になる場合は、乾いた後にルツーセを塗と解消できます。

お疲れ様でした。