画家になるためには、制作方法を知り自分のイマジネーションをうまく表現することが重要です。

後に作家として歩んでいくためには、この授業で得た方法をヒントにして、自分の新たな絵画を生み出してほしい。

自分の好きなモチーフを選び、現実にはあり得ない空間表現に挑戦していきましょう。

今回は貝殻を描いていますが、自分が好きな植物でも果物でもかまいませんので、楽しんで描けるモチーフを選んでください。

 

はじめに

前回は基礎として、静物画をじっくり描いてもらい、油絵を理解していただきました。

初めての油絵でしたが、ある程度の感覚はつかめたのではないでしょうか。

今回の授業では、制作練習として静物を使ってイメージ画を描いて行きます。

近い将来、生徒さんも自分の考えやイマジネーションを使い、プロがしているような制作をしていくことになります。

そのためにも今回の授業は、見えるものと想像の世界を組み合わせて描く方法で画面作りを行います。

F3号と小さめの絵でやっていきたいと思います。

小さな画面を埋めるところから始めるのは、初心者でも確実な作品として見栄えよく仕上げられるからです。

小さい画面ですので、細かい作業になります。

細めの筆を準備してください。

 

制作目的

この授業は、普通の静物画と違い、現実とイメージの世界を組み合わせて、

絵画的に構成をし現代的な考え方で、一つの世界を作りあげる勉強です。

いきなり大きな画面では、上手くいかないので小さなものから少しずつ大きくして、画面を操れるようになりましょう。

小さな画面ですが、密度を上げて今回は細かい部分を描いて行きます。

作品が大きくなると、このような作品も描けるようになります。

この絵はバックを仕上げて、その上に花を描いています。

技術的には一度で花(チューリップ系)を描く実力が必用です。

今回はこれより小さめの作品から練習していただきます。

バックも同時進行で描く方法にしましたので、

まずはこの方法で練習していきましょう。

 

制作のポイント

ポイント1

ポイントは前回と違い、今回は油彩の下地を準備して、その上から描く事にします。

制作方法が違うのは、下地を作った方法で軽く上塗りをする、テクニック重視の方法で描くからです。

それほど難しいことはしませんが、ちょっとしたテクニックを使いますので、マスターしてください。

油絵の具のいろんな可能性を知ることができます。

 

ポイント2

この絵はわりと軽い感じで描いて行きます。

そして、筆で塗るだけでなく、筆で素描する感じで描きます。

この方法では、デッサン力が少し必用になるので、練習として紙に、

鉛筆で一度デッサンをしてみてください。

 

ポイント3

貝殻と鉄の鍵をモチーフに選びました。

まったく同じものは難しいので、代わりに、スプーンとかナイフとかでもいいので、材質が似ているものを選ぶのもいいでしょう。

また、簡単なものからトランプや植物、と自分が描きやすいもので画面に並べてみるのもいいと思います。

はじめは、似たような石や貝殻などから始めるのもいいかもしれません。

 

ポイント4

今回は、制作方法を参考に自分のイメージで画面構成していくことが大切です。

あくまでも、僕の絵は制作参考で、生徒さんは自分の色彩感覚を生かして制作してください。

自分の好きな色を使っていいということです。

僕は描く方法を紹介していきますが、少しずつ自分の好きなイメージで画面を作る練習をしていきましょう。

 

下地作り

地塗りはなぜするのかというと、キャンバスの厚みを出すために行います。

前回のような描き方では、基本絵具の層を作るのに何度も重ねる作業が必用になります。

厚塗りの方法なら問題ありませんが、皆さんはまだ初心者なので、私はその方法で描きませんでした。

(厚塗りにもテクニックが必用で、ほとんどの人が挫折しやすいからです。)

ルネサンス時代に、板には何層もの下塗りが程されていました。

その当時は絵具の練り合わせ剤がまだ完成しておらず、今より薄い絵の具だったのです。

厚い下地の上から薄い絵の具で描いて、頑丈な絵にすることで、画面の力強さを出していました。

それと似た方法で、今回は作品を描いて行きます。

 

下地・1

今回キャンバスは、薄いビニールキャンバスがあったのでそれを使いました。

このキャンバスは、あまり丈夫ではありませんが、アクリルと兼用で使えるキャンバスです。

キャンバス自体が薄いのですが、キャンバス目も薄く凹凸が少ないのが特徴です。

僕は今回このキャンバスが余っていたので使っただけです。

下地ですが、油絵の具のヴェネチアンレットにラピットメディウムを加え塗りました。

あらゆる方向から塗り、キャンバス目を塗りつぶしてください。

フラットになるように、だいたいでいいので整えます。

本当は、2~3層塗るとさらにいいのですが、今回は時間の都合で一回だけ塗りました。

 

下地・2

下地のメインカラーを塗ります。

ヴェネチアンレットとファンデーションホワイトを使い二段階の色を作ってください。

(別に好きな色で描いてもかまいません。)

一つは中間色、もう一つはホワイトを多めにして作ります。

どちらもラピットメディウムを少し加えてください。(早く乾かしたいときに使いますが、少しだけつかいます)

絵の具に対して8分の1くらいでいいと思います。

あまり多く入れてしまうと、速く乾くのですが、画面がツルツルになり、下描きがしにくいと思います。

自分の好きな感じの、下地にして下さい。塗るだけでなくたたいてみると面白いマチエールになります。

オイルを少し入れても大丈夫です。

塗り終わったら2~3日乾かしてください。

 

1・下描き

白いコンテ、チョーク、ダーマトグラフなんでもいいので、白で下描きします。

今回僕は、白の短いチョークしかなかったので、これを使いましたが描きにくかったです。

長くてとんがっているものが、おすすめです。

 

2・下描き

だいたいのアタリとして形をとってください。

はみ出したチョーク線は、絵の具やオイルで消えますから、残しても大丈夫です。

画面の中心を考えて、貝とカギの感覚を考える。

 

3・下描き

ビニールの細い筆で、輪郭を描きます。

色は、バーントアンバー、オイルに少しのテレピンを加えています。

 

4・下描き

形を正確にとり、影の色をつけていきます。

下描きでも、描く感じが大切です。

素描する感じですね。

はみ出たり、間違った場合は、ぼろ布でふき取りましょう。

 

5・下描き

この段階でしっかり形をとってください。

この技法は、下絵が命になります。

慎重に描きましょう。

 

6・下描き

貝をバーントシェンナとシルバーホワイトで色を作り明るい部分に塗ります。

影にはバーントシェンナとピーチブラックをまぜて塗りました。

この三色を使い、下描きをします。

 

7・下描き

引き続き描き続けます。

絵具に少量のラピットメディウムを加えました。

まだ下描きなので、ハイライトもアタリ程度に軽く描き込みます。

 

8・下描き

下地がオイルを吸い取っているので、ライトの反射で少し見えにくいですが、影の部分に絵の具をのせます。

バーントシェンナとピーチブラックをインターロンの筆で描く感じで塗りこんでいきます。

常に明、中、暗と面を意識して描きましょう。

 

9・下描き

貝のボリュウームを出していきます。

三色をうまく使い調子を整えてみましょう。

腰のしっかりした柔らかめの毛の筆を使います。

僕はビニールの筆で描きました。

 

10・下描き

カギのモデリングを行います。

ピーチブラックとバーントシェンナで黒っぽい色を作る。

全体をべた塗りで、絵の具をぬりました。

 

11・下描き

対象をよく見て形を描きます。

アタリの線より、自分の目を信じて写しましょう。

下地を塗った場合は、絵具の食いつきは良くないので、豚毛ではなく、ビニールの筆を使いました。

ツルっとした部分には、ビニールの筆で描くと絵の具が乗りやすい。

 

12・下描き

細い筆で、鍵の細かいさびや陰影を描いて行きます。

バーントシェンナとピーチブラック、シルバーホワイトを使いました。

 

13・下描き

鉄のかたまりですが、19世紀のものなので、少しさび付き鉄も少々柔らかさも感じます。

時の年月で、表面はいろんな色に変色しています。

画面が小さい絵は、細密になるので細い筆をよく使います。

 

14・下描き

暗い部分の輪郭を明確にしていきます。

丁寧に鉛筆のタッチのように筆を走らせる。

絵具は、オイルをつけてやわらかくしてください。

 

15・下描き

明るい部分をシルバーホワイトとバーントシェンナ、少しのローシェンナを混ぜて、二つの明るさを作り使い分けます。

ここでも対象をよく見て、デッサンするように描き込みましょう。

間違った場合は布でふき取って、やり直してくさい。

 

16・下描き

貝を三つの断面として考えることで、立体が出やすくなります。

貝の明、中、暗を正確に分ける感じで、描いてください。

 

17・下描き

さらに、貝の細かい細部を描き込みます。

実際貝は、細かく自然が作った色なので、複雑です。

 

18・下描き

陰影の中の反射を捉えてボリュウームを出します。

この場合は、絵の具を薄く塗ってください。

暗い部分に塗ると、透き通った感じになります。

 

19・下描き

だんだん立体感が増しましたね。

まだまだハッチングを重ねます。

明るい部分も、立体をよく見しましょう。

 

20・中描き

離れて見て、全体を見直し明るい部分と暗い部分が、後ろに回る感じになっているのか把握してください。

チタニウムホワイトでハイライトをつけます。

チタニウムホワイトはいちばん白い部分以外には使いません。

 

21・中描き

細かい反射も逃さずによく見ましょう。

明るい部分にも、反射はあります。

貝の部分は、横に丸く縦にも丸いようにとらえます。

 

22・中描き

バーントシェンナとバーントアンバー、ピーチブラックを使い軽く影色をのせて、全体に塗りホワイトを加えた色で明るさを表すと貝の透明感が出てきます。

この時に、やみくもに色をのせるのではなく、よく見て描くようにしてください。

 

23・中描き

バーントシェンナとバーントアンバー、シルバーホワイトを使い、明るい部分を強調していきます。

素描するような感じでハッチングを繰り返していく。

 

まとめ

下地から中描きまで一気に進めましたが、いかがだったでしょうか。

下地をうまく利用して制作していくことを、この作品で経験してください。

この経験をいかすことで、自分で考えた下地方法を使い制作できるようになれます。

重要なのは、正確に形を捉えて最後まで、描いて行けるようにすることです。

油絵ですから描き直しは可能ですが、この方法はテクニック重視の方法なので慎重に進めてください。

次回も、中描きの続きを行います。

お疲れ様でした。