ヨーロッパ絵画の歴史を見ればわかると思いますが、絵画に描かれる人物はデフォルメされています。
ルネサンスの時代には、理想化された美の追求がされていて、ボッティチェリのヴィーナスの誕生やラファエロの聖母子と現実の人物を少しデフォルメすることで、女性美をさらに引き出して描くように教えていました。
彼らも、古代ローマやギリシャ美術から学んで、さらに魅力ある表現を研究したことでしょう。
古代でも、ホルバインやファン・エイクのように写実的な仕事をしている肖像画家もいますが、この二つの仕事を理解して習得することで、絵画の可能性が広がることができます。
新古典主義のアングルはその代表的な人です。
彼のスケッチやデッサン、下絵は写実的ですが、作品となると古代ギリシャ彫刻のようにデフォルメさせている。
彼は美の追求をするあまり、平面の浮彫的な絵画を目指すことになります。
人によって、このように自分の可能性を広げて自由自在に絵を描けるようになるには、すべてを理解する知識とテクニックが必要になってきます。
柔軟な頭脳をみがきクリムトのような絵画を作り上げるには、あらゆる経験をする必要があります。
制作の流れ
多少のデフォルメと描き込み
今回は微妙に細部の手直しをして、自分の理想の人物に近づけていきます。
顔の骨格を少し変えるだけで人物の表情に大きな違いが出たり、影の付け方や濃さで、印象が大きく違って見えます。
皮膚の色彩にも同じことがいえます。
細部の目、鼻、耳、口なども少しの違いで顔の人相はまったく変わるのです。
そのことを理解して、今回の授業を参考に、自分の制作に取り入れていきましょう。
髪の毛の処理
この絵で重要な部分として、長いウェーブした髪の毛がありますね。
ウェーブした髪の毛は、ストレートよりだいぶ難しいのですが、波打つ髪は動きがあり魅力を引き出す効果があります。
今回はその髪の毛のまとまりを目指して、ある程度まで描き進めていく。
描き重ねることで深みを増すので、この方法で描くと初心者でもある程度表現を可能に出来る。
髪の毛の色彩をつなげていき、光をとらえてある程度かたまりとして見るようにしましょう。
胴体のモデリング
胴体はこの絵ではそれほど描き込みません。
レンブラントの絵のように、暗闇に隠れているので肩を除けば重要ではありません。
肩から首、肩から胸、肩から腕の3つの遠近を考えて、光線の流れを把握していくことを中心にモデリングしていきます。
制作のポイント
・顔
顔の骨格と、皮膚の色彩に重点を置いて制作していきます。
顔の表情は骨と、面のトーンによって作り上げることができる。
絵筆を上手く利用して、自分の理想的な絵画に近づけるように描いて行きましょう。
・髪の毛
ルネサンス絵画では髪の毛は、人間の魅力を表す部分として用いられてきました。
髪の毛の表情は絵画の魅力の1つであり、人間の内面を表すときにも用いられる部分です。
細密になるのですが、大きな塊としてとらえていくようにしましょう。
・首
この絵で一番難しいのは、首のかすかな動きです。
大きな動きではありませんが、角度からして、微妙なトーンを作らなければなりません。
細い首は肩との遠近があり、頭を支えている軸のようなものです。
写真では平たく映ることが多い首ですが、彫刻的な表現が必用です。
・体
影に隠れている胸の部分ですが、向こう側に回りこんでいる感じに描かなければいけません。
あとで胸の上に首飾りが描き込めるように、絵の具をのせて微妙な立体と反射を作っておきます。
肩にハイライトが当たり、腕の半分くらいまでの光の流れを捉えることを重点に描き込む。
あとから肩にも髪の毛がかかるので、はっきりとした凹凸を作っておく必要があります。
・バック
今回は人物画がメインの授業なので、バックは暗く塗りこむ感じになります。
三層ほど塗りますが、ホワイトを使い空間を意識したバックを目指すようになります。
バロック絵画的な、光と闇をテーマにしていくことにしました。
233・油彩中描き
バーントアンバー、マースオレンジを混ぜた色で下塗りして、ローシェンナを混ぜた色で上塗りしていきます。
肩にかかった髪の毛を軽く描きます。
髪の毛の全体を捉えながら描き進めましょう。
234・油彩中描き
髪の毛は下塗りして、上塗りをくり返すと描きやすく伸びが出ます。
色調のトーンをつなぐのが難しいかもしれませんが、独自の表現で楽しみながら試行錯誤してみるといいでしょう。
自分のパターンができれば、制作もスムーズに行くようになります。
色彩の統一感や流れを出すことに力を入れる。
235・油彩中描き
下の方は少し暗めにしておきます。
腕の光の流れに近い感じで、着彩してください。
大きく3つの色を順番に乗せていくと、自然に髪の毛の動きが出てきます。
筆は軽く持ち、しなやかなタッチを目指しましょう。
236・油彩中描き
影にはヴァンダイクブラウンを使います。
色調の流れを感がると肩より下は、ハイライトが入りません。
濁っている部分は塗りつぶして、色を塗り直すようにしていきましょう。
時間がかかりますが、初心者はこの方法で塗り重ねて描くと必ずいい結果を出せます。
237・油彩中描き
ハイライトを描き込んでいきます。
ローシェンナにネープルズイエローとシルバーホワイトを混ぜ合わせて明るい光を表現します。
耳下あたりから光がきつく感じられます。
首筋から肩にかけての光がハイライトと考えましょう。
なるべく細い筆で、線を描くように塗る。
238・油彩中描き
波で凹凸があるため、山の部分は光ります。
ここは、髪の毛を美しく見せるポイント部分なので光らせますが、色が白っぽくならないように注意しましょう。
クリーム色と考えた方がいい。
239・油彩中描き
光がきつすぎる部分を描き直します。
全体的に下地を塗っておきます。
ここでもバーントアンバー、ヴァンダイクブラウン、マースオレンジを使いました。
先ほどのハイライトに使った色を、ここでも使います。
髪の毛は、自分の気に入った感じになるとさわらなくていい。
でも、気にいらない場合は何度もやり直してみましょう。
240・油彩中描き
バックを塗った時にはみ出して、頭が少し削られていたのでもとに戻します。
下地を塗って三段階で着彩します。
細部はよく、何ミリ単位で消えていることもありますから、気をつけましょう。
241・油彩本描き
細かい細部の色を塗りこんでいます。
頭のてっぺんは丸くなっているので、髪の毛もそれに沿って丸みをつけていきましょう。
色彩のトーンを美しくつなげて、グラデーションさせることが大切です。
242・油彩本描き
真ん中の髪の毛の分け目は最新の注意が必用です。
あまり白くなり過ぎないようにして、色彩のバランスを考えましょう。
意外と難しい部分です。
243・油彩本描き
細い筆でハイライトをつけていきます。
顔のハイライト部分の色に合わせてください。
顔がメインですので、そこのところを上手く調節する必要があります。
244・油彩本描き
ここでも明、中、暗を意識しながら作業を進めていきます。
暗い色は、バーントアンバー、とヴァンダイクブラウン、ローシェンナ。
中間色は、ローシェンナ、マースオレンジ、バーントアンバー。
明るい色は、ローシェンナ、イエローオーカー、ネープルズイエローとシルバーホワイトを使います。
245・油彩本描き
編み込まれた髪の毛の表現は難しいですが、形が正確なら、同じような感覚で作業を続けていけます。
ここの部分も描き方によって、個性が出ますので、自分のタッチを活かせるようにしましょう。
耳の上あたりから下まで一気につなげていきます。
246・油彩本描き
少しカーブがあり後ろに回り込んでいるので、一番苦労する部分です。
光の色合いを合わせることを考えて作業に進みましょう。
247・油彩本描き
イヤリングの部分を描き起こしていきます。
ヴァンダイクブラウン、とアイボリーブラックをまぜた色で影を作り、グレー色で丸みを作ります。
ここでも3色に分けて反射まで描き込みます。
248・油彩本描き
真ん中の金色はローシェンナ、とイエローオーカー、ローアンバーを使いました。
ホワイトとイエローオーカーを使い明るい光を表現します。
飾りなので、あまり描き込む必要はありませんが、光っている感じだけ作っておきます。
249・油彩本描き
ネープルズイエローとシルバーホワイトを使い光の色合いをつけていきます。
丸を作る作業なので、練習にはいいかもしれません。
250・油彩本描き
イヤリングの影のまわりや首の色作りをしていきます。
このあたりの、丸みや遠近などは写真に写らない部分です。
よく、考えながら描き進めるようにしましょう。
この絵に限らず、自分で制作するときに平面的な明るい部分の造形は、
前もって頭に入れておくといいでしょう。
251・油彩本描き
基本色で、髪の毛の影をつける。
ここでもトーンの段階を作る必用があります。
肩と首の折れ曲がる微妙な部分です。
まっすぐの角度と、斜めの角度の両方を描くようにしましょう。
これをしないと肩とのつながりや流れが悪くなり、、首が棒立ちになってしまいます。
252・油彩本描き
陰影の中での色彩表現です。
暗い部分を強調して深みを出し、その上から明るい色で反射の色を置きます。
明るい部分の耳たぶた軟骨部分にライトレットとネープルズイエローとシルバーホワイトをで着彩します。
253・油彩本描き
耳の色に合わせて、髪の毛を描き込んでいきます。
絵を描くときは、対比を考えて制作を進めていくといいと思います。
髪の毛に色をのせてから、マングースの筆で全体をならしておきましょう。
254・油彩本描き
アゴの部分に少し赤みがある影色をつけてみました。
同じく首にも大きく塗ります。
255・油彩本描き
ここで影の色合いを調節し直します。
この中間色とハイライトの間の塗りこみは難しい部分です、
角度が微妙で、柔らかい表現をしなければいけません。
細かい作業なので、細い筆も使う。
256・油彩本描き
唇を描きます。
ライトレット、ウインザーレッド、ヴァンダイクブラウン、、アイボリーブラック、シルバーホワイトを使います。
鼻のしたなどの影色は基本色のライトレットを多めにして、ホワイトをまぜてみましょう。
257・油彩本描き
光の流れを見て、少しづつ明るく肌色を調節していきます。
影の部分も影色の調節しています。
258・油彩本描き
目の下にもう一段階の面を作っていきます。
徐々に細かい色面を作って、色の幅を増やしてみましょう。
面を増やすことで、顔の表情が変化していきます。
259・油彩本描き
ここで気になっていた目の形を修正していきます。
基本色を使い影の線をいじります。
これは、目に奥行きを出すのが目的です。
260・油彩本描き
いらない線を塗りつぶします。
細い筆でデッサンするように線を描いて、
柔らかい筆で明るすぎる部分を塗り、目を奥に引っ込めます。
目が少し手前に出過ぎていたからです。
261・油彩本描き
面を少し修正していきます。
少し気にいらないので、描き直すことにしました。
大きく豚毛で行うのが手っ取り早い方法です。
これは修正したいときに行う方法なので、必用な時にだけにしましょう。
262・油彩本描き
部分を強調してみました。
目の造形を考えながら光を描き込んでみましょう。
この時、後でどのように描きすすめるかも考えておきます。
263・油彩本描き
鼻の部分の形を描き込みます。
鼻の下部分や先端の丸い部分は向こう側に回り込み、鼻の下は唇につなげなければいけません。
色調と細かい面を作るのが難しい部分です。
264・油彩本描き
鼻の下あたりの影を作り、形を微妙に変化させました。
鼻が丸すぎると感じたので、少しとがらせて高さを持たせたかったからです。
自分で絵を作るというのは、ある程度頭の中にイメージが必用です。
はじめは無理なデフォルメはあまりおすすめしませんが、ある程度描けるようになったら、いろんなことをしてみるといいと思います。
265・油彩本描き
絵の具のあらさがあるので、細かい部分を描き込みながらもとに戻していきます。
鼻を細く高い形にデフォルメしたため、ほほの部分も細かく調節します。
266・油彩本描き
唇も肌の色調に合わせて、ホワイトを入れていきます。
口まわりの形がまだ整っていないので、全体的にいじっていく。
267・油彩本描き
カドミウムレッドを少しだけライトレットに入れてみました。
ここでも明、中、暗を作ります。
影色はライトレッドにアイボリーブラックを入れます。
中間色はライトレッドを多めで調整してみましょう。
カドミウムレッドかウインザーレッドを、ほんの少しだけ加えると赤みが表現できます。
268・油彩本描き
肌の色調を描き進めます。
口の周りを描き進めることで、すっきりとした造形になってきました。
まだかたさが残っているので、丸みを作っていきます。
269・油彩本描き
目の下に少し赤みを入れました。
口の横にも同じように少し入れ、明るいハイライト色を上からかけます。
白目の部分をワントーン下げます。
ヴァンダイクブラウンとアイボリーブラック、ホワイトを使いました。
270・油彩本描き
唇をはっきりさせるため、下唇とその下の影を描き分けます。
唇は軽く描くのがポイントです。
アゴの下は基本色なので、メリハリははっきりします。
唇の色を基本に口まわりの色調を、把握していくことも大切なところです。
271・油彩本描き
おでこ部分の中間色を作り、丸みあるグラデーションを表現していきます。
明るいハイライト部分の色調を、少し上乗せしていくと綺麗に色がつながります。
ほほから耳までの間にも同じようにするとよいでしょう。
うっすらぼかす感じですね。
272・油彩本描き
そのまま首も同じように描き進めます。
首の色を少し実際より暗めにしてみました。
273・油彩本描き
顔の色のパターンと同じ感じで色をつなげますが、動きを作るので実際作る必要があります。
顔を豚毛でなでて、マチエールを整えました。
豚毛は、絵の具を操れる筆なので、上塗りの場合はあまり力を入れないように描きます。
274・油彩本描き
影になり部分をブラックとウルトラマリンを中心とした色で塗りこみます。
ブロック的に考えると、光は腕の半分ほどしか明るくありません。
後に髪の毛がのることを考えているので、だいたいの目安を考えているところです。
275・油彩本描き
ルツーセを塗って、明るいハイライトのあたりを入れます。
刷毛でぼかして、中間色を入れて整えます。
整えたら豚毛で全体を塗りこみます。
276・油彩本描き
不要な部分を飛ばして、ブロックのように分けた肩の形を起こしています。
メリハリをつけると遠近がはっきりします。
277・油彩本描き
少しブルーを多めの色を使い、肩をグレーズしておきます。
下地のハイライトに混ぜ合わせ、上塗りに明るいハイライト色を塗り合わせます。
首までの遠近がいちばん大切です。
腕を細かく描いていますが、後で消えるのでそれほど描き込む必要はありません。
278・油彩本描き
なるべく暗い感じで描き進めていきます。
脇アタリがいちばん暗い色です。
腕が手前にあるように見せるため描き込んでいますが、もう少し暗めの色で描いてください。
制作過程まとめ
今回ある程度まとめに入っていきました。
顏や髪の毛のデフォルメを行い、雰囲気が少しずう変化しましたね。
ここまでの段階で、モデリングは終わり、描き込みに入っています。
顔の部分は、授業的に変化させていますので参考として考え、自分の制作に役立ててみてください。
目的を持って、最初から絵の方向性を決めておくようにしましょう。
本描きは上塗りですので、次回もどんどん細かい作業になっていきます。
お疲れさまでした。