人物画にはいろんな描き方があります。
今回は19世紀の写実的な方法を取り入れていますが、これが今回までの前半に描いてきた部分です。
だいたい今回の授業まで描いて、最後の授業と組み合わせると、初心者でも写実主義的な方法に到達できます。
もちろん訓練は必用ですが、普通の人よりは早いペースで上達できます。
あとは個人のアレンジで、細密化したり、写実性を強調することが可能です。
(写実的に描くには、はじめに徹底したデッサンが必用)
次回からの後半は、古典的な方法に転換していきます。
人物画の制作方法は数多くありますが、初心者でも描き進められる方法として2つの方法を選びました。
制作ではなく、授業なので参考として見てください。
2つの方法を知っていることで、自由に人物を描けるようになっていただけます。
はじめに
前回に続いて、着彩を進めていくことで顔の表情や骨格を確定していきます。
細部や皮膚を形成していくことを目標に、制作を進めていきます。
女性の皮膚の表現はデリケートなもので、色や質感をよく見て描く必要があります。
顔が似ていなくても、気にしないこと。
今、問題なのは、人間らしく描けているかを意識する方が大切です。
描写力がある人はこの問題を考える必要はありませんが、ない場合、今はそちらに力を注ぐ必用はあまりありません。
もちろん似ているとよいのですが、初心者は描写力も同時に上達していけるように、素描を多く描いて経験する必要があります。
ある程度人物画の大切な部分をマスターできると、素描の力を使い良い人物画を描けるようになります。
焦らず、素描と同時進行で練習するといいと思います。
制作のポイント
今回の制作のポイントは、色を使いこなすことと、筆を使いこなすことです。
顔のトーンをつなげることで、人間らしくなっていきます。
人物画で難しいのは、皮膚の色とトーン配色、色面を多く作ることです。
筆も使い分けて、どのような時にどの筆を使えばいいのかを、よく考えるようにしましょう。
画家によってそれぞれ好みの絵肌が違うので、自分の好みの絵肌を作る訓練をしていきましょう。
また、柔らかい刷毛を使い、ぼかしの技術も身に着けていきましょう。
141・油彩中描き
目にはウルトラマリンとピーチブラックをまぜて描き込み、ホワイトを加えて光彩をつけます。
中心の黒はピーチブラックです。
細かい作業なので慎重に行いましょう。
142・油彩中描き
目元はライトレッドとシルバーホワイトを使います。
基本色の影色と比べて描き込んでいきます。
暗い方の反射している部分もよく見てトーンを調整してください。
143・油彩中描き
目の白い部分には、シルバーホワイトをピーチブラックに混ぜ丸みが出るように着彩します。
まぶたの影もよく見ていきましょう。
あまり白っぽくしないように注意してください。
144・油彩中描き
奥の目もホワイトを入れますが、こちらはもっと気を付けて色を置きましょう。
左より、暗くした方が良い。
145・油彩中描き
ハイライトを入れて、目のまわりを明るくしていきます。
おでこから鼻筋までの流れを意識しましょう。
146・油彩中描き
ライトレットで全体の赤みを入れて、肌の調整をしていきます。
イエローオーカーを混ぜて、ハイライトに手を加え肌色となじませてみる。
147・油彩中描き
口まわりにも同じような明るい色を置いて調整します。
柔らかいテンの筆を使いました。
耳にも明るい光を加えておきます。
148・油彩中描き
おでこに明るいトーンを入れていきます。
軽く乗せる感じで行っていきます。
おでこから鼻筋までつなげ、そのまま暗い部分にも入れておきます。
149・油彩中描き
アゴにもうワントーン加えます。
ウルトラマリンが多めの影色です。
影がある部分全体に施していきましょう。
全体の骨の丸みを意識してください。
150・油彩中描き
ほほはなるべく明るくして、鼻の明るさとつなげましょう。
ここでは、豚毛で新しく面を作ると考えているところです。
151・油彩中描き
ほほのまわりを明るく調整していましょう。
口まわりの細かい部分に基本色を入れて調節します。
ちょうど中間色でライトな感じで、のウルトラマリンを少しと
ライトレット、ローアンバー、ホワイトで調合した色です。
髪の毛との境目に影色をおき、髪の毛と皮膚の空間を作ります。
152・油彩中描き
豚毛で軽く中間の肌色をなじませています。
筆は軽く持ち、転がす感じくらいで行います。
ちょうど女性がメイクするような感じでしょうか。
首筋には、絵の具を多めにつけて描き込みます。
153・油彩中描き
頭と首のつながりは難し部分です。
顔に塗った絵の具の層に合わせて、何回か絵の具を重ねます。
豚毛で絵の具をのせるとよいでしょう。
154・油彩中描き
明るい色で色調を整えてみます。
軽く絵の具をのばして描いてください。
下塗りした色をいかして、中間色も作りましょう。
155・油彩中描き
ヴァンダイクブラウンを基本色にまぜて暗い影を強調します。
目の中心の黒はピーチブラックです。
まぶたの影にも基本の影色を入れました。
156・油彩中描き
ローアンバー、ローシェンナーを使い眉毛に着彩します。
眉毛の下と目の下にも影色を入れておきます。
中間色を上から入れますが、明るい反射だけ表現していきます。
157・油彩中描き
耳にも濃いめの色で、モデリングしていきます。
耳からアゴをつなげて、アゴのラインを確定します。
今まで、顔の調整をしていませんでしたが、少しずつイメージを作り出していきます。
158・油彩中描き
ここでイヤリングの真珠を描きます。
上下に形が違う真珠があり、真ん中は金細工です。
細い筆を使い、ピーチブラック、ホワイト、で描きます。
丸みを感じさせるくらいでいいと思います。
159・油彩中描き
真珠を描くと耳とアゴと首の間に空間が生まれます。
金の分部はローシェンナとバーントアンバー、ローアンバーなどで暗い部分を描き、明るい部分はイエローオーカーをローシェンナやホワイトを少し混ぜます。
160・油彩中描き
首の丸みをつけるために明るいトーンを入れてみました。
顔全体の肌もばらつきがあるため、徐々に肌色を合わせていきます。
161・油彩中描き
大きな面から徐々に小さい面を作っていきます。
角度の違う色面を、つなげると考えましょう。
少しずつ丸みを表現する感じで、色のトーンをのせていきます。
162・油彩中描き
目の周りのトーンを調節していきます。
中間よりやや暗めの色をのせて明、中、暗を作り出してください。
ここで全体を柔らかい筆を使い軽くなじませます。
163・油彩中描き
目の白い部分が少し明るすぎるので、
グレーを全体に塗りまわりに暗い色をつけて丸みをつけます。
目玉の影とまつげの部分を描き分けてはっきりさせます。
まぶたの影を入れると、奥行きが生まれます。
164・油彩中描き
ハイライトがキツイ部分に明るい色を置いて、一度明るくしてみました。
目にも反射の光を少し入れています。
165・油彩中描き
細部の輪郭が薄いので、はっきりさせます。
写実の場合は最初にこのような事をしますが、
僕は写実ではないので確実な線は後の方に決めていきます。
線にかんしては人それぞれ自由なので、
デッサンを確定したい場合は最初に決めておいてもいいと思います。
166・油彩中描き
目の周りに赤っぽい色を入れていきます。
血色を表した反射色と考えてください。
細かい作業ですが、下地となじませるのに必要な事です。
167・油彩中描き
色の付け方によって、顔の表情も微妙に変化します。
下地を濃くして上塗りする方法と、
下地を薄くして、上塗りする方法があります。
168・油彩中描き
豚毛を軽く使うと肌の面を作りやすくなります。
面をもう一度起こしたい場合は、豚毛を使いましょう。
豚毛でも柔らかい筆がおすすめです。
ホルベインの豚毛の毛は、柔らかく描きやすいと思います。
169・油彩中描き
ハイライトにはネープルズイエローとシルバーホワイト、ライトレットを使います。
お好みで、イエローオーカーとシルバーホワイトだけでも構いませんが、
肌の調子を整えるようにしましょう。
170・油彩中描き
首の色調も、顏の色調に合わせますが、首の色と少し違いを出せるといいかもしれません。
ここでも豚毛で顔に負けないくらいの、絵の具の層をつくっていきましょう。
171・油彩中描き
目の中を少し暗くして、目全体の暗さに合わせます。
軽く色を施し、刷毛でぼかします。
ぼかすことでリアリティーが生まれます。
172・油彩中描き
目の明るい部分を描き起こします。
目にももう一度光を入れますが、あまり明るくしないで、黒を多めにした色を置きます。
パレット上では暗く見える色でも、画面上ではちょうどいい感じになります。
色彩の把握は慣れが必要です。塗ってみてダメな場合は、布でふき取るか、
から筆にルツーセをつけてふき取ることで元に戻ります。
173・油彩中描き
ほほの骨がある部分のハイライトとおでこの部分は同じような光り方をします。
目の部分はそれより少し、おさえた色にしておいた方がいいでしょう。
映像では少し明るく感じます。
174・油彩中描き
目の黒い部分を描き起こしています。
目の黒い部分の描き方の違いで、絵の雰囲気が大きく変化しますので、
自分が納得いくまで形を見直しましょう。
175・油彩中描き
写真というのはまぶたがよく光っていますが、実際はそれほど光っていないはず。
僕はあまり光らせたくないのですが、ここでは明るめにしました。
あとで調節し直します。
176・油彩中描き
半身像の場合顔がメインになります。
そのため今回は顔を中心に先に描き込んでいます。
角度の違いやコスチュームを描いて行く場合は、全体的に進めるといいかもしれません。
※撮影をしながらなので、いつも通りの作業は不可能でした。
177・油彩中描き
だいたい皮膚の感じが整いましたので、
ここで目にハイライトをホワイトで入れます。
ハイライトを入れるときは慎重に行いましょう。
絵に生命を吹き込む瞬間です。
178・油彩中描き
ほほからアゴにかけて、肌を整えます。
ここら辺の色彩は、単調になりやすいので注意が必用です。
179・油彩中描き
アゴの丸みをつけています。
あごや口の周りは柔らかく丸みがあるので、難しい部分です。
部分的に塗り、柔らかい筆を使うといいかもしれません。
180・油彩中描き
鼻の凹凸を表すために赤みをライトレットで表現しましょう。
ライトレッドをうまく使いこなせると、人間らしい質感を生むことができます。
181・油彩中描き
アゴに影を入れ骨格の幅を描き込みます。
回り込ませるための下地です。
182・油彩中描き
あごからほほにかけての部分は難しい部分です。
よく写真では写らないトーンの部分です。
なるべく、絵具を載せるといいでしょう。
183・油彩中描き
あごまわりに合わせて、そのまま首も描いて行きます。
同じ筆で描いて行くといいでしょう。
184・油彩中描き
髪の毛の部分は色彩のツヤがなくなっているので、ルツーセを筆か刷毛で塗っておきます。
おでこの部分から髪の毛をつなげるため、おでこに着彩しておきます。
185・油彩中描き
おでこの丸みを考えながら、絵の具を塗ってください。
そしてうっすらと髪の毛の色をのせ、肌の色で光を入れます。
うっすら産毛も表現しておきましょう。
186・油彩中描き
マースオレンジ、バーントアンバー、ローシェンナ、
ローアンバーを使い髪の毛の色を作っていきます。
何通りにも色を作ることができ、
部分的にグラデーションを行う感じで着彩していきましょう。
筆は、自分が使いやすいものを好みで選んでください。
187・油彩中描き
全体的に一番濃い色を塗っておきます。
次に来る色を置いて髪の毛の質感を出していきましょう。
だいたい3段階か4段階くらいの色を使い、
ハイライトまでつなげていくことを忘れないように!
188・油彩中描き
暗い部分と明るい部分を見分けながら、髪の毛の色をつなげていきましょう。
マースオレンジを基本に明るい下地を塗り、明るさを強調しています。
制作過程まとめ
今回顔を中心に作業しましたが、だいたいこの辺から一気に仕上げる人がほとんどです。
顔の話ですが、後は細部を描き込んで整えていく感じです。
写実主義や細密描写の画家たちは、わりと厚塗りしないで、軽いタッチで新鮮な描写を目指します。
軽くぼかすことで、写真的、映像に近いニュアンスを与えることが可能なのです。
次回は髪の毛から全体を見ていき、顔を古典的(アカデミズム・理想化)な方向に変化させていきます。
お疲れ様でした。