人物画を描く (P10) NO.3

油彩で人物を描くのは、いちばん難しいと考えられています。

絵画の歴史を見ても、人物画が最高位といわれて来ました。

人間の姿で描かれた神が中心の世界は、人々に生きる希望と夢を与えていたのです。

現在の我々の生活の中で、人物画はそう見る機会がないかもしれませんね。

今は、写真や映像がある時代ですから、その影響の方が強くて絵をどう見ればいいのかわからない人もいます。

写真や映像に慣れた我々の目は、絵画をどのように描けばいいのでしょうか。

ここで描く人物画は、自分で理想の人物を描く事を学んでいただきます。

写真のまま描くのは、デッサン力があれば誰でも描けるので、初心者の授業では必用ありませんね。

このTASの授業では、そこのところをとばして、初心者からでも画家として活動する技術を持つための授業なので。

はじめに

絵が上手くなると、写真を見て描くこともします。

現実的にモデルを使い続けるのは、経済的にキツイと感じている人が多いからでしょう。

写真と絵画理論はまったく違うもので、写真は光と影を写したものですから人間の目で見たようには映りません。

写真のまま描くと立体になりにくいのです。

写真は、輪郭線で止まり、グラデーションがなく明暗だけです。

絵画に写真を応用し始めた19世紀、巨匠ブーグローは写真を使い始めていました。

彼は正確なデッサンと、オイルスケッチを描き、写真を撮ってそれを見本に表情や形を参考にしています。

ですが、彼はアカデミーで完璧にデッサンをマスターしていました。

ブーグローは写真を上手に使うことで、軽やかな絵画を正確なデッサンで描く事に成功しています。

写真は、形の正確さや細かい部分を描くとき役に立ちます。

参考資料的に使い、写真の色はなるべく使わないようにしましょう。

自分の目で見える色で描く事を忘れないように。

 

制作のポイント

今回の授業内容は、前回と同じくモデリングをしていきます。

モデリングは、厚塗りで描けない人には重要な下描き作業です。

油絵のベテランになれば、絵筆にたっぷりの絵の具をつけて一気に描き込んでいきますが・・・

初心者には、ハードルが高すぎる方法です。

絵の具が無駄になるだけでなく、キャンバスに描いた下絵も消えてしまい、途中から描けなくなる人が増えます。

これが、油絵を描いて挫折する人が増える原因です。

なので、今回は静物画とよく似た方法ですが、生徒さんが一人でも手順通り描いて行ける方法を使いました。

 

ポイント

・豚毛の筆をよく使い、絵の具をのせる練習をする。

・細い筆で細部の線を描く。

・テンやマングース、リス、馬などの柔らかい筆を使う練習もする。

・絵の具の基本色を4通りは作れるように自分で実験してみる。

・人間の顔の骨と皮膚の部分を観察してみる。

・影と光、中間色を見分けて面を作る。

・似なくてもいいので、造形的に人間になるように描く。

・今回も使う色は前回とほぼ同じなので、ライトレッドやホワイトをうまく使いこなせるようにする。

以上を念頭に置き、実際描いて行きましょう。

 

66・油彩中描き

ローアンバー、ヴァン・ダイクブラウンとホワイトでバックを塗っていきます。

試しに全体を塗りつぶします。

 

67・油彩中描き

下描きと同じく角は暗くします。

ブラックを少し加えました。

※注意

ブラックを使う時は少し他の色を混ぜたり、白を少し入れるようにしてください。

ブラック単独だと、あとでひび割れの原因になります。

 

68・油彩中描き

トーンを作って、筆跡が汚く残らないように塗ります。

画面に空間を作る気持ちで、絵の具を塗り重ねてください。

 

69・油彩中描き

髪の毛の下地作りをしています。

顔に比べると絵の具の層が薄すぎるので、何度か塗り重ねて行きます。

この段階ではまだ、ローアンバー、バーントアンバーを使っています。

 

70・油彩中描き

少しピーチブラックも使っています。

髪の毛には髪の毛や顔には、ピーチブラックを使い、他の部分にはアイボリーブラックを使います。

 

71・油彩中描き

ここで、ほんの少し飛ばしていますが、髪の毛と眉毛はローアンバー、ローシェンナーバーントアンバーをまぜて塗りました。

顔には基本の色に、イエローオーカーを少し入れて塗りました。

まだまだ同じことをしますので、後の動画を参考にして下さい。

ここでは、少し細かい部分、目にウルトラマリンにホワイトを入れ、目の周りにライトレッド、シルバーホワイトをまぜれつかいました。

 

72・油彩中描き

目元に基本の影色を塗り、まぶたに明るい光を入れてみました。

鼻にもハイライトをつけておきます。

 

73・油彩中描き

目の周りに赤っぽい影色をつけます。

色を調節して、マングースの筆でぼかします。

骨を意識して、その上に皮膚があることを考えながら、絵の具を使いましょう。

 

74・油彩中描き

基本色を赤っぽくして、鼻の先端とほほに塗りました。

首には影色を使いますが、ここでも3つの色に分けています。

基本の3色をうまく利用して描いていってください。

 

75・油彩中描き

服の作業に入る前にダーマトグラフで下描きしておきます。

アイボリーブラック、ウルトラマリン、マルスバイオレットの三色で服をべた塗しています。

 

76・油彩中描き

豚毛で大まかに塗ってください。

色彩は、ブラックの量で調節します。

ホワイトを使い、肩を明るくする。

 

77・油彩中描き

肩と腕が手前に出るように白くしておきます。

ホワイトとウルトラマリン、マルスバイオレットを使います。

肩にはあまりブラックを使わない方がいい。

 

78・油彩中描き

ブルーを多めにして光の部分を塗っていきます。

肩を描くのは難しいと思いますが、いちばん手前が明るくなるようにします。

手前は絵具が厚塗りになってもいいので、何度でも失敗して大丈夫です。

 

79・油彩中描き

ここでは絵筆を大胆に使ってください。

体は奥行きを出すのが、いちばん難しいかもしれません。

遠近法を考えてみましょう。

ここで、静物画での練習が役に立ちます。

 

80・油彩中描き

暗い部分が多いので、それに合わせて色彩調節をしていきます。

画面上で、絵の具をまぜていく練習もしてみてください。

 

81・油彩中描き

髪の毛の影色を塗っていきます。

明るい部分には、バーントアンバーとマースオレンジ、ローアンバーをまぜています。

 

82・油彩中描き

先ほどの色を全体にべた塗しています。

そこに少しホワイトを入れた色で明るい光を表現しています。

ウェーブした髪の毛を表現するにはまず、光で光っている部分から着彩していきます。

 

83・油彩中描き

流れるように髪の毛を描き込んでいきます。

この女性は髪の毛が長いので、塗るのにだいぶ時間が取られます。

僕は本当は、一回で描き切るのですが、動画ではそれは不可能ということと、初心者には難しいので、何回も段階を作り描き込んでいくことにしました。

 

84・油彩中描き

首の裏から肩にかけてが、いちばん難しいところです。

影色を使い段ができるように影を塗ります。

一度大きな馬の筆で、全体をなじませています。

筆はそのまま何もつけないで、全体をぼかす感じで行います。

 

85・油彩中描き

ホワイトを多めに入れて光を強調していきます。

この段階はアタリとして考え、大まかなイメージと思ってください。

明るい色と暗い色で、順番に作業していきます。

 

86・油彩中描き

髪の毛の全体の流れを作っていきます。

多少濁りますが、画面上で色を自然に混ぜていく。

少し練習が必要な作業なので、慣れるには時間がいるかもしれません。

 

87・油彩中描き

マースオレンジとバーントアンバー、ローアンバー、ピーチブラックを、うまく使いこなして色を作ります。

顔に使っていた絵の具を、髪の毛の光の部分に使うこともします。

 

88・油彩中描き

基本色のいちばん暗い色で、輪郭とアゴ下、鼻の下の影を強調します。

ぼろ布は、はみだしや、間違いを感じたときにうまく利用していきましょう。

 

89・油彩中描き

ここでも影の強い部分に、色を置いていきます。

首筋やイヤリングの影、耳の上の髪の毛の暗い部分など、暗い部分を強調していきます。

 

90・油彩中描き

影の部分に基本色の影色を塗りこんでおきます。

完全に濃い部分は眉間の部分と眉毛の下です。

鼻の部分の濃いですね。

その反対の明るい方には、ハイライトを入れておきます。

 

 

91・油彩中描き

ここから口にはつかいピーチブラックとライトレッドをつかいます。

その延長で顔の影にもこの色を塗ってみました。

このように自分が感じる影色を作ることは大切です。

自分が見える色を作れるようになってください。

 

92・油彩中描き

ハイライトを入れていきます。

ホワイトを多めのライトレッドに、少しのイエローオーカーを入れてハイライト色を作ります。

自分の顔をさわってみるとわかりますが、骨がある部分は光が反射します。

ここでは鼻と目元にハイライトが入っています。

筆はマングースの筆を使いました。

 

93・油彩中描き

ハイライトは、あまり極端にならないようにします。

まわりの色調に合わせてください。

 

94・油彩中描き

口の影には、ウインザーレッドとピーチブラック、ライトレッドを使います。

どちらの色もブラックにまぜてみて、使い分けたりしてください。

同じ色にウルトラマリンもまぜて、目の周りの影に使います。

 

95・油彩中描き

基本色の影色を使い、赤い色、青っぽい色を使って塗り重ねていきます。

ほほにはライトレットが多めの影色を塗っておきます。

 

96・油彩中描き

鼻の下に影をつけ立体感を出します。

細かく描くので、細い筆を使っている。

鼻の穴よりは、明るめにして丸みをつけていきます。

ほほにも反射をつけてみました。

 

97・油彩中描き

目にウルトラマリンとアイボリーブラックをまぜて塗ります。

濃いブルーを塗って、その上に光の反射で青く光る部分に、ホワイトを入れた先ほどの青を入れます。

上の方はまぶたの影があるので、暗い青を塗り、下の方に白っぽい反射色を塗ります。

 

98・油彩中描き

目の白い部分に手を加えます。

ピーチブラック、シルバーホワイトでグレーを作ります。

全体的に暗いグレーを塗り、中心の明るい部分には少し明るめのグレーを少し塗ります。

失敗しやすい部分なので、細い筆で作業していきます。

回り込む部分にも、ピーチブラック、ヴァン・ダイクブラウンをまぜ、少しホワイトを加えて丸みが出るように塗っていきます。

この作業は難しいのですが、すでに塗っているグレーと、トーンを調節します。

 

99・油彩中描き

影のまぶた部分にきつい色を置き、奥行きを出します。

西洋人はほりが深いので、影が濃くなります。

その反面、まぶたが目立ちます。

眉の間と眉の部分の、横に広がるトーンをよく見て着彩していきましょう。

 

100・油彩中描き

基本色に、少しのイエローオーカーを入れて着彩します。

少し黄色っぽい色を、二通り作ってみましょう。

ライトレットで調整します。

 

授業まとめ

全体的な最初のモデリングを行いました。

下塗りをして、どんどん絵の具をのせていく準備をしたことになります。

まずは顔の層を作っていきますが、まだ表情は変化していきます。

絵の具で細かく描けない場合は、紙に鉛筆で細部を描く練習をしてみるといいと思います。

顔の部分の細かい形がどのようになっているかを知る必要があるので、鏡で自分の顔を見て観察してみましょう。

次回も顔と髪の毛を中心に描き込んでいきます。

お疲れさまでした。