現在の風景画の特徴を理解するには、写真や映像と、現実的な色彩の違いをしっかり知る必要があります。
古代の画家たちが描く風景画は、わりと軽いのが特徴ですが、現在の風景画は少しかために描かれる。
この違いは何かというと、映像による写実的な描写によりすべてを確実にとらえられるからです。
写真による固定は、絵を固くします。
各部分を正確に切り取って描写するためです。
昔の絵はほとんど創造的なものでしたので、自分の眼で自由に画家が描いていました。
そのため筆のタッチは柔らかく、こだわりがあまりありません。
そのため、絵が柔らかく魅力ある画面に仕上がったのです。
現在の写真を使う風景画は、忠実になればなるほど悪くなります。
写真を100%そのまま描いても、写真を超える作品は生れません。
絵は訓練をして、写生をくり返すことで、写真を参考資料として使えるようになり、
制作経験を積むごとに、写真は半分くらいしか使わなくなっていきます。
大切なのは、自分の眼とスケッチ、そして創造です。
仕上げ
今回で授業は、最終回になります。
風景画は慣れるまで時間がかかる分野ですので、じっくり取り組んでいきましょう。
仕上げになりますが、各ブロックを順番に仕上げていき、
上下左右のブロックと組み合わせて違和感がないようにチェックしてください。
今回はもう自分の力で絵の具の色を作り、筆を使いこなしていける段階です。
絵から離れて全体を見渡し、不自然な部分がないかチェックしていきましょう。
オイルの濃度は濃いめにして、絵具の食いつきをよくしておくように!
制作のポイント
デフォルメ
風景画はデフォルメが自由にできる分野です。
木の位置を変えたり、大きくしたり、小さくしたりできます。
雲や建物の形を少し変えてみたりと自由にアレンジして、
絵の見栄えも自由に調節できます。
意外と簡単なので、不要な部分や必要な部分をデフォルメしてみましょう。
色彩を自由に決める
絵画の世界では、色彩は画家の個性となる。
写真通りの写真色で描くと、同じような画家がいた場合、
みんな同じ人が描いたように見えます。
絵はあなたの分身のようなものです。
貴方の心の色をみつけてください。
写真と同じ色を使わず、自分の色を取り入れていきましょう。
自分を主張できるような絵画空間に仕上げる努力をしてください。
省略と消去
絵画上不要と感じる草木や雲、建物などは消してもかまいません。
絵の中で重要な役割をしている周りの、不要と感じる部分のことです。
主人公を決めて、その主人公に鑑賞者の目がいくようにする必要があるからです。
写真を見て絵になっていない部分を取り除くようにしましょう。
全体を見てバランスを見る
特に仕上げに入る時は、後ろに下がり全体のバランスや遠近などを見ましょう。
空と地上のバランスや空気感なども大切です。
中心の建物はもちろん、その両端の木や草などに至るまで、
バランスよく自然な感じに奥行きを感じれるかを常に確認してください。
わからない場合は、絵を逆さにしてじっくり見るように!
348・油彩本描き
睡蓮と水面を描いていきます。
ここで、水連はひとつの塊としてとらえてください。
水面は建物が映っている色彩を用います。
349・油彩本描き
うっすら影色を塗ります。
もう少し丸みをつけるためのニュアンスです。
ここから少し陰影を作りこみ、絵画的に良いイメージを探します。
明るい部分にもうっすら着彩してみましょう。
不要であれば、布でふき取ってください。
350・油彩本描き
木の色彩の幅を増やしていく。
生命感が出てきているので、
さらに生き生きとした木に見えるようにしてください。
写真を気にせず、自分のイメージにそって自由な表現にしていきましょう!
351・油彩本描き
光で木の葉が光る部分を見て、それと同時に枝もしっかり描いていきます。
木の枝をホワイトを入れたアンバーなどで光を描く。
細かい作業ですが根気よく行いましょう。
352・油彩本描き
木陰の部分にもかすかな光のトーンがあります。
この部分も想像力を活かして、魅力ある光と影を演出していきましょう。
影と光を追いかけていけるような、遠近法を感じさせてください。
この部分が成功すると、水面も自然にうまくいくでしょう。
353・油彩本描き
奥の木々も明るいグリーンを入れていきます。
筆先を使い、まばらな調子で葉の色を作っていきます。
葉の細部に目を向けて、細かいニュアンスを演出してください。
354・油彩本描き
奥はフラットに描いてもいいのですが、少しの色彩の変化を描くことで、少し見え方が変わります。
奥の木々は写真通りではなく、僕が自由にアレンジしたものです。
生徒さんも自分のイメージに合う表現にしてみてください。
木を使い、奥行きを上手く感じさせることを考えましょう。
355・油彩本描き
もういちど明るい細部を描き足します。
細い筆を使い、上塗りしていく。
オイルの濃度を濃いめにして固着力を高めていきます。
356・油彩本描き
チタニウムホワイトはキツイホワイトなので、
中間色と合わせて色を作っておきましょう。
あまりホワイトが強すぎて、色がとばないように!
357・油彩本描き
カドミウムオレンジとマースオレンジを合わせて大きな屋根を塗ります。
この屋根の色彩は、絵のアクセントになる部分なのでしっかり描き込んでおきましょう。
太陽の光を浴びている部分でもあるので、明るめに描いてください。
358・油彩本描き
ホワイトを少し加えて、光を表現しました。
瓦のばらつきがあるので、その辺の表現は自由にしてみてください。
塔の屋根も後ろの屋根と対比させて、色彩をのせます。
少しオレンジを加えて、明るい感じにしていきましょう。
359・油彩本描き
チタニウムホワイトをまぜて、建物の角を強調していきます。
ここでもレンガの光を描き加えていきましょう。
ライトレットをほんの少し加えて、チタニウムのキツイ白を弱めます。
チタニウムホワイトは、ほんのすこしでも発色するので、使い方に注意が必用です。
360・油彩本描き
もう一度塔に戻り、となりの建物に合わせて描き込んでいきます。
距離感を出すために立体的に細部を描きましょう。
基本色やアンバーを使って、強調する部分ももう一度描き起こしていく。
361・油彩本描き
水面にも同じ色を入れていきます。
できるだけ絵の具を多めに塗り、力強いマチエールを作っていく。
塗り重ねて深みを出し、水の動きも同時に表現してみる。
362・油彩本描き
深い影色を水面に入れていきます。
ホワイトとのバランスを考えて、トーンをつくり出していく。
深い色を全体に施し、水面の色層を深めていきましょう。
363・油彩本描き
乾いたらさらに暗い色をのせていく。
グリーンの影の下地として、ブラックを多めの下地にしました。
364・油彩本描き
パーマネントグリーンやテールを上塗りしていきます。
不自然な光は塗りつぶしてもかまいません。
とにかく、厚みのある前景にしていきましょう。
365・油彩本描き
奥から手前に遠近を意識して絵の具を塗っていく。
明るい部分と暗い部分を描き分けて、空間が広がるような水面を描きます。
そして、自分の目で距離感を、前後左右に作るようにしましょう。
366・油彩本描き
ホワイトを多めにしたグリーンで睡蓮を描き込みます。
僕は、ほぼ自由に写真を見ずに描き進めています。
自分の感覚で印象的に花をいれ睡蓮を形作る。
写真通り描いてもいいので、自分の感覚で絵のバランスを創りだしていきましょう。
367・油彩本描き
テールベルトを中心に水面にグリーンを入れました。
少しイエローで光を取り入れています。
絵具は厚めに塗り、水連の存在を強調します。
ほぼ目には見えない睡蓮ですが、グリーンの塊としてとらえるようにしました。
明確に描きたい場合は、じっくり形を捉えるようにしましょう。
368・油彩本描き
不要な部分を暗い色で埋めていきます。
光を入れすぎると、水連が目立ちません。
光は遠近などのバランスをよく見て描き込みましょう。
369・油彩本描き
左端の木々の色調を整えます。
写真の見え方が良くないので、自分の感覚で整えることにしました。
370・油彩本描き
日が当たる場所なので、できるだけ明るい色彩を選び、草木のきらめく感じにしました。
カドミウムイエローアゾを使い細やかな葉の色彩を全面に出してください。
左端の見せ場になっているので、手を抜かないようにしましょう。
371・油彩本描き
写真で見ると明るい光が入っています。
肉眼では多分それほど光ってはいないと思いますが、いちど白っぽいグレーを入れてみました。
遠近法で考えた場合はそれほど明るくしない方がいいかのかもしれません。
372・油彩本描き
ウルトラマリンをホワイトで薄めて、空の深みを出していきます。
雲と雲の間に穴をあける感じで空間を作っていきましょう。
空気遠近法をよく考えて、ブルーとホワイトを上手く使いこなしていくのです。
373・油彩本描き
さきほどと同じようにブルーを塗り重ね、ぼかしたりしていきます。
油を筆先に少しだけつけて、絵の具と混ぜるようにしてください。
あまり油が多いと描きにくくなってしまいます。
374・油彩本描き
豚毛の筆でチタニウムホワイトをハイライト部分に入れていきます。
何度も空は描き足していますので、もう手順に慣れてきたと思います。
塗って、上手くぼかしてください。
375・油彩本描き
チタニウムホワイトは他の色を食べてしまう
キツイ発色力があるので、気をつけて使いましょう。
筆の絵具を上手く利用して、ぼかすことを忘れないように!
雲の陰影には、光を通した反射光が入ります。
空気感と灰のような感じをよく見て描いてください。
376・油彩本描き
ブルーを入れて、雲の柔らかい感じを出します。
風を感じさせるような軽さを出せればOK!
絵具のねっとりとした質感を利用して、雲の凹凸を作ります。
377・油彩本描き
雲は楽しんで描いてください。
ホワイトによる表情を変えていくことで、自分だけの面白い表現が可能です。
筆の遣い方を工夫すると、さらに違う絵肌にもできます。
378・油彩本描き
雲が流れるように、霧のようなぼかしを入れていきましょう。
あらゆる部分にこのぼかしは使えます。
雲の奥行きを描くときも上手く利用してください。
379・油彩本描き
塗り重ねて厚みを出し、奥行きも出します。
色彩のトーンを把握しておくと、空気感を出しやすくなります。
380・油彩本描き
キャンバスから離れてみて、
空が上手く奥に行っているのか確認してみましょう。
雲と雲の感覚が上手く成り立っているのか、
自分で狂いがある部分を見つける訓練をしてください。
381・油彩本描き
木陰部分に描き込み、暗い色調をいれます。
水面との境目も細かく描き込み、緑色のトーンで遠近感を出していきましょう。
いろんな緑のパターンを作って光と影のグラデーションを表現する。
382・油彩本描き
左側の草の遠近感を出していきます。
2,3種類のグリーンを使い、ホワイトと組み合わせて葉の色に深みを出していく。
ついでに睡蓮も描き足して、丸い形にしていきましょう。
手前を明るくすることで、自然に遠近感が生まれる。
383・油彩本描き
水面に映る緑の反射を明るいグリーンで表現します。
ホワイトで花を描いておくと、アクセントとしての役割をしてくれます。
筆で軽く絵の具を置くだけです。
詳しく描きたい場合は、他の色を何色か使うといいでしょう。
384・油彩本描き
少し濃いめのグリーンを上塗りします。
色調を合わせるための下準備で、全体のバランスをとることを考えていきましょう。
そして、明るい色調で、光を表現していきましょう。
画面全体の左右の対照的な風景の色調をまとめるために、絵全体を見直してください。
385・油彩本描き
前景の厚みが出来上がって来たので、
細かい光や水の揺れなども描いて水面を感じさせることをしていきます。
薄い色と、濃いめの色の配置に気をつけましょう。
筆先を利用して、風で波打つ感じを少し出していくと、
絵に動きを与えることができます。
386・油彩本描き
ここで、絵が少し細かいこともあり、大きめのまとまった影をつけました。
建物のイメージカラーを個人的なものににしていく。
慣れてくると、最初のうちからこのようなことを計算して行います。
387・油彩本描き
細部描写をして、絵の具を厚めに塗り重ねます。
写真の色と違う色をどんどん入れていき、自分の絵画世界で絵の独立した魅力を出しましょう。
リアリズムをしたい方は、実物を見て色を研究するか、写真色に頼る方法を模索してください。
388・油彩本描き
筆を大胆に使えるようになると、より魅力的な絵を描けるようになります。
細かい作業も大切ですが、絵筆の使い方を研究することも大切です。
不要と感じる部分は、省略できるように目を訓練していきましょう。
389・油彩本描き
中心部分の細部に手を入れます。
ちょっとした光の塊が絵の魅力になるので、
よく見て光を描き加えていきましょう。
もし、もう仕上げてよい状態ならさわらないようにする。
390・油彩仕上げ
写真にはないぼかしや、光の効果などを独自で描き加えていきます。
写真のまま描いてもいいのですが、絵として面白さを感じられない場合は、
独自の法方で描いていくと絵画的な特徴となり、自分の個性につなげることができます。
391・油彩仕上げ
僕はこの絵に印象派的な画法を加えました。
現実より、色調が深く明るい部分もあります。
画面を支配する色彩がはっきりして、絵の雰囲気も絵画的なものになっています。
写真とまったく違うようで、絵だけ見ても違和感がないように仕上げることが大事です。
写真通り描くと、写真を超える絵を描くことができないので、よく考えて制作してください。
392・油彩仕上げ
さらに描き込みをしていきます。
遠くに見える細かい木の葉を描き加えていく。
手前の草なども描き加えて色調を整えましょう。
空気感を意識してください。
393・油彩仕上げ
右側も同じように葉を描き加えて、グリーンの色彩に深みを出します。
遠近感と、色彩の統一性を同時に描き込む。
遠近のバランスを守り、自由に木を描いてください。
細密描写なので、なるべく細い筆を使うように心がけること。
394・油彩仕上げ
雲の距離を調節します。
ハイライトを入れて、もう少し近くしたい雲、もう少し奥にいかせたい雲を調節していきます。
雲も生きているような生命感を描くと、より風景画の魅力が増します。
雲は、ドラマティックな演出には欠かせません。
395・油彩仕上げ
地ががっちりしてくると、雲はより自由な感じにしていきましょう!
地上の草木とは対照的な空間を作ることを考えて仕上げにかかります。
天地のバランスを常に意識して制作を進めてください。
396・油彩仕上げ
暗い色を入れて明暗の対比をきつめにしました。
ホワイトを塗り重ね、少しボディを入れます。
トーンのバランスで、見え方が変わってきますので、気にいるまで描き続けてみましょう。
397・油彩仕上げ
左端の緑の深みが足らないので、描き加えます。
テールベルトにピーチブラック、パーマネントグリーン、
クロームイエローなどを加えていきます。
後ろ側の緑とのバランスを整えましょう。
398・油彩仕上げ
手前の草に色彩を加え深みを入れます。
全体をグリーンで塗り、ホワイトを加えて描き直していく。
399・油彩仕上げ
そのまま草を描き加えていきます。
いちばん前面に出ている部分なので、光の明暗ははっきりしています。
この部分も、独自の解釈で描いてほしい部分です。
個性を出して、絵の魅力を出してください。
400・油彩仕上げ
そのままでもよかったのですが、少しなにか特徴が欲しいと感じて、水連の影を描き加えました。
この作業はアイデアのひとつとして、参考程度に見てください。
遊びを入れたような感じですので、本番にはこのようなことは慎重に考えて行う事です。
401・油彩仕上げ
草の色を黄色い感じにして、明るさを強調します。
水面は影を強調して、明暗をつけ直していく。
402・油彩仕上げ
オイルで絵の具をのばし、その上から軽く描き直します。
深みと神秘性を少し加えて涼しい雰囲気にしました。
403・油彩仕上げ
手前に水の光を描き足していく。
この部分も見える範囲で描き、あとは想像でまとめていきましょう。
それほど神経質にならないで、軽く描くほうがいいかもしれません。
404・油彩仕上げ
中間色が必要な部分を描き足していく。
強調する場所や色がとびすぎている部分などを
よく見て塗っていきましょう。
405・油彩仕上げ
最終仕上げとしてチェックしていきます。
必要なハイライト、色彩と線などを入れる。
中心をまとめて、バランスを見直すようにしましょう。
406・油彩仕上げ
最後に大きく光を創りこみます。
見栄えよく建物が絵の中で目立つようにしました。
余裕あるタッチで描き終えてください。
やりすぎると絵がつぶれますので気をつけて仕上げる。
終わりに
今回の風景画は、写真だけを使ったもので、現場でスケッチをしていません。
できれば、現場で十分下絵を描いてきて、アトリエで制作する方がわかりやすいと思います。
写真の色は、現場で自分が見る色彩とだいぶ違います。
写真で見える色彩だけ見た場合は、人間の思い込みのように単調なのです。
人間の目は細かい色彩まで全て見通すことができるので、
風景画を描くときは現場で実際自分の目で色彩を把握しておくようにしましょう。
風景画は空間が広く、自然そのものを描く仕事なので自然観察が欠かせません。
時間があれば、自然がある場所であらゆるものを観察してください。
風景画の基本を描けるようになる授業でしたが、風景画は自由に描きやすい分野です。
自分のカラーと構図などを創り上げ、独自の世界を切り開いていってください!!
風景画を自由に描けるようになると、画家として活躍しやすくなります。
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これまで静物画から風景画までの授業をしてきましたが、
まだ自分は静物画しか描けないとしても気にしないでください。
上達するには授業を何度も見て手順を覚えることと、
基本を上手く活用して訓練していくことが大切です。
根気よく自分のペースで頑張って自分のものにしていくのです。
7ヶ月間学んだことと同時に自分の世界を組み合わせて画業に専念していきましょう!
見て実践して継続していくことを止めなければ成果は必ず出てきます。
7ヶ月間ご苦労様でした。
ありがとうございました。